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Unreal その3

「……であんまししつこいから8×4渡したげたんよ。ヒャ―ッて顔してた」
京都弁のまったりとした感じと、関西ゆえの流れるようなトーク。
生で聞く彼女の喋りは、その独特のテンポもあり、笑いが堪えきれない。
声は意外と落ち着きがあってよく通る。
おそらくはこれから、彼女のチャットを見るたびに思い出すだろう。

そして横をみると、きめの細かい髪。
こんな細い髪は見たことがない。櫛で梳くと全部抜け落ちそうだ。
うなじから高級ホテルの石鹸のような匂いがする。
あまりにいい匂いで、思わず息を大きく吸いたくなるが、
発情していると思われては格好悪いのでやめた。

今のスクランブル交差点で、彼女を見た男は8割。
琉希はさすがに慣れているらしく、意識はしていないようだ。
慌しく人並みを避けながら、時おり輝く高層ビルを見上げている。
京都にはそんな高いビルはないそうだ。

動く歩道や通天閣などなど、大阪名物(?)を見せて回る。
彼女は視線を左右に散らしてはしゃいでいた。
喜怒哀楽のはっきりした表情は、よく動かすから輝くんだろうか?
しかし彼女が一番注目するのは、いい匂いのする食い倒れ通り。
そういや、いつも何か夜食喰いながら狩りしてるな…。
それにしても、彼女もいい匂いだ。
石鹸でなく柑橘系かもしれない、と思えてきた。

「そろそろ、なんか喰おか?」
行きつけの店が近づいたので提案すると、
彼女は(待ってました!)という笑顔を作った。
今にもよだれを垂らしそうな頬のひきつり・・・可愛い。

その丼屋は商店街の外れにある。
味は一級品だが、見た目が一軒家なので客が少ない穴場だ。
琉希がブーツなので、座敷ではなく椅子に腰掛ける。
鉢巻をつけた大将が彼女を睨んでいた。
今どきの物が嫌いな人だから。
だが、琉希が頼んだ天丼が届き、彼女がそれを食べ始めると、
心なしかその視線も緩んでいった。

おしとやかに一口一口、ではなく、かといってがっつくでもなく。
箸が止まらないとでも言うように、次々と頬張る彼女。
確かにここの丼は美味い。
だが、これほど美味しそうに食べる子ははじめて見た。               
グルメ番組のように笑っているわけではないのに、幸せそうだ。
思わず見とれていると、恥ずかしげにはにかんで
「あんたも喰え!」とばかりに箸で俺の丼を指した。

そこから映画を見て、ゲーセンに寄るとすぐに辺りは真っ暗。
喉も渇いたので近くの居酒屋に入った。
はじめはチューハイをちびちびやっていた琉希だが、
そのうち俺の真似をして生中を飲み干す。
ほんの一杯で顔が真っ赤。目がとろんとしはじめている。

この間も彼女は話し続けていたが、どんな話だったかは覚えていない。
ただ、とんでもなく色っぽいと思ったことは確かだ。
マスター・・とか呟いてちょっと背中を預けてきたりしてたから。
さっきまでは対等な立場、という感じだったのにこのギャップ。
酔った彼女が可愛くて、ちょっと回りに対して優越感もあった。
実際俺も、この日はずっと心臓が高鳴っている状態。
酔いもかなり早い。

自然と、俺は彼女の細い腰を抱き寄せていた。
琉希は一瞬、戸惑ったようにこっちを見たが、
すぐに力を抜いてもたれかかってくる。
               
オフ会での出会いというのは、なんとも不思議な感覚だ。
チャットでは心友といえるほど打ち解けているのに、会ってみると知らない顔。
幼馴染が全く別の人間になったようなものだ。
おかしいぐらいに興奮する。
彼女もそうなんだろうか、腕を組んでみたがり、そのまま指を絡ませてくる。
酔うと下系に大胆になるタイプだろうか。

店を出た後、俺と彼女はしばらく黙って立ち尽くしていた。
まさか、彼女も同じことを考えてるんだろうか・・?
じわりと汗の滲む手に力が込められた。
「……せっかく、会ってんし」
確か、彼女は男性恐怖症だったはず。
でも握られた強さを感じると、そんな伺いを立てることもできなかった。

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純愛・恋愛 | 【2017-03-31(Fri) 20:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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