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姉貴への想い

電電公社と専売公社がいつの間にか民間企業になり、国鉄はJRに名前を変え、
円高不況にあえいでいた日本経済は、内需拡大の掛け声のもと徐々にバブルへと向かっていく。

バービーボーイズがパンクスを、BOΦWYが強烈な8ビートの縦ノリロックを奏で、
米米クラブが陽気に歌い、おニャン子クラブの誰が好きかで討論になる。

海外では、MADONNAは肌の露出が多すぎると叩かれ、マイケルジャクソンの肌の色がまだ褐色で、
QUEENのフレディマーキュリーが半裸でステージを駆け抜けていた。

俺たちは、バーチャルとリアルの区別なんか無くて、目の前にあること全てが現実だった。
昭和といわれた時代の後半を、団塊の世代ジュニアと勝手にカテゴライズされた俺たちは生きていた。

それは・・・。
携帯電話なんかなかったし、PCだって金持ちのボンしか持っていない。
電話も黒電話が当たり前で、廊下まで電話を引っ張って親に白い目で見られながら長電話していた。
夜中に女の子へ手紙を書いて翌朝読み返し、あまりの熱い内容に自ら赤面し、手紙を破り捨てる。

それが当たり前だった時代。
自分の思いを相手に伝えるには、自分の言葉が全てだった。

当時、KingOfHobbyと言われたアマチュア無線人口は100万人を超えていた。
我が家もアマチュア無線(ハム)を親がやっていた。

だから姉貴も中1で免許取得し開局した。
姉貴は美人だったと思う。仙道敦子と松本典子を足して2で割った感じ。
中学入学した俺は電気部に入部。
そこで先輩に教えてもらいながら、俺もハムの試験に合格し開局した。

このころは姉貴と一緒によく風呂に入っていた。
少女といわれる年代から思春期といわれる年代まで、意識はしていなかったけど、
姉貴の体は成長していたと思う。

学校じゃ恥ずかしくて姉貴とあまり口を聞かなかったけど、家ではべったりだった。
夜食に作った一杯のラーメンを分け合ったり、2人羽織りみたくアイス食ったり。

そして夕食が終わった後は無線で馴染みの連中とだべっていた。
今も当時も変わらないけど、そんな趣味持ってる10代は工業高校の奴ばっかりで、
女の子なんてほとんどいないから、姉貴はモテていた。
そして俺を含めた中学生の免許持ちも少ないから、俺もかわいがってもらった。

夕食後は姉貴の部屋でテレビを見ながら、姉弟で無線しながらいつも一緒にいた。

姉貴は中学卒業後、実業系の高校に入学した。
学校が結構遠かったから、姉貴の帰宅時間が遅くてだんだん一緒にいる時間が減ってきた。
仕方ないと思いつつ、少し寂しい思いはしていたんだけど。

俺も姉貴も免許持ちだから個別に無線が出来たんだけど、何となくそれまでは一緒に無線をしていた・・・。
そして、それが当たり前だと思っていた。

でも・・・
ある日姉貴が俺にトランシーバー(無線用語でリグ)をくれるという。
貰えるリグは144MHzのFMのみ。
姉貴は自前でリグを新調し、144MHzのオールモード(FM、SSB)を買った。

FMはFMどうし、SSBはSSBどうしでなければ話ができないから、
姉貴がSSBで話をしているのを俺は聞くことが出来ない。

《あぁそっか。彼氏出来たんだな》
ガキの俺でも一発でわかった。

俺の部屋に姉貴のお下がりのリグを設置はしたけど、寂しくて姉貴の部屋に行く
でも姉貴は俺の相手をあまり相手をしてくれない。
いままで夕食は寝るまでずっと一緒だったから、その空虚感はすごかった。

それからは俺の部屋で今までの連中と姉貴抜きでだべる事が多くなった。

姉貴の部屋からは姉貴の声はするけど、俺のリグでは機械的に聞けない。SSBで彼氏と無線してんだなってわかってたけど。
無線仲間も唯一の女の子がいなくなったから過疎化していった。
このころから一緒に風呂はいること無くなった。

昭和61年4月、俺は中3に進級。
姉貴は高2。
俺は地元の普通科が志望で塾通いを始めた。
帰宅して塾に行き、9時頃帰宅と言うのが週3回くらいで、自転車で通っていた。

自宅へ通じる道は細くて、きつい登り坂だったから帰りは押して帰る。
夏、真っ暗な夜道をわずかに燈る街路灯を頼りに自転車を押していると、
道が少し広くなったところに見慣れない車が停まっている。

《86トレノだ》
興味のある車種だから自然と目が行く。

人が乗っている。
《車中で抱き合ってるよ、暑い中ご苦労なこった》
なんて考えなが通り過ぎようとすると、車中の女の子と目があった。

《!!!!!姉貴じゃん。なにやってんだよ》
見たくないものを見てしまった。

だからといってどうすることも出来ない。
だまって俺は帰宅し、独りで酷くまずい飯を食っていたら姉貴が帰宅してきた。

「ただいまぁ。汗かいたから、先にお風呂入ってくる」

《汗かく様な事したのかよっ》
と心で毒づきながら、俺は姉貴と顔をあわさないように自室へ逃げ込んだ。
そのうち階下からお袋が馬鹿でかい声で風呂の催促をしてくる。
ムスっとしたまま入浴、すぐに無言で自室へ戻った。
そのうち、ドアがノックされる。

「なに?」
「入っていい?」
「いいけど、勉強中だからな」
「じゃちょっとだけ。最近、千里クンと話してないし」
「そうだっけか?」
「・・・・いまかかってる曲何?」
「BOSTONのAmanI'llneverbe」

机に向かったままぶっきらぼうに答える。
確かに最近、姉貴とはあまり話をしていない。
俺は塾通いだし、姉貴とは時間帯が全くあわない。
土日はバイトしてるとかで家にいない姉貴だ。

姉貴は俺の部屋の本棚物色しながら、こちらを気にしている様だ。

「姉ちゃん、何か用があるんじゃねぇの?」
「・・うん。さっきの事、お母さんに言った?」

《いきなり確信かョ》

「なんのこと?」
「え?だからさっきの?」
「さっきのって何?」

机に向かったまま答える。でも参考書のことなんかまるで頭に入らない。

「ううん、なんでもない。ねぇ千里クン、まじめな話していい?」
「あ?もう。なによ、さっきから」
「ごめんね、勉強中に。ちょっとだけ」
「いいよ。」
「ウチ、つきあってる人いるの」
「うん、それで」

ますます俺の不快指数が上がる。
ついさっき偶然知ったことを、改めて言われると強烈に腹が立ってきた。

「今日、彼氏に送ってもらってきたの」
「ふぅん、俺の知ってる奴?」
「ううん、知らない人だと思う」
「無線やってんの?」
「うん」
「・・・」

会話が噛み合わず、全く続かない。

《しょうがねぇなぁ。聞きたくねぇけど聞いてやるよ》
「彼氏って何やってんの?」
「○○大学の3回生」

げっ地元の国立じゃねぇか。

「姉ちゃんと接点ないじゃん、どこで知り合ったのよ?」
「○○○(無線のコールサイン)の先輩」
「は?○○○って、あの○○○? 奴の先輩って?」
「○○○くんのバイト先に遊びに行ったとき、彼も一緒にバイトしてたの」

姉貴が○○○のバイト先に遊びに行ったなんて初めて聞いた。
間違いなく俺の強烈な不快さが露骨に顔に出てたと思う。

「ごめんね、隠すつもりはなかったんだけど」
「別に俺の許可必要ないし」
「・・そうだけど・・」

気まずい沈黙が流れる。

「父ちゃんと母ちゃんは知ってんの?」
「言ってない」

《秘密にしてんなら近所でいちゃつくなってのっ!!!》

我慢できない。声が荒ぶる。
「なぁ、姉ちゃんが誰とつき合おうと勝手だけど、秘密にしてんなら近所でいちゃつくなよ」
思わず立ち上がってしまい、勉強机がひっくり返った。

「やっぱり見てたんだ」
「気付いてたよ。ってかその彼は姉ちゃんのこと大事に思ってるんなら、近所であんな事しちゃだめだろ」
「・・・千里クン、ありがとう。心配してくれてるんだね」
「知らねえよ」
「ありがとう」

姉が抱きついてきた。
《ちょっと前まで風呂に一緒に入ってた時は気付かなかったけど、姉貴っていい匂いがするんだな》
思わず思い出した感覚に酷く嫌悪する。

畜生、畜生、畜生、畜生・・・

姉がそっと離れる。
「話が出来てよかった。ありがとう」
俺の頬に軽くキスをして姉は部屋を出ていった。

そのまま俺は本格的な受験モードに突入した。
姉貴とは今まで通りすれ違い生活が続く。
顔をあわせば普通に話が出来るんだけど、時間が全く合わない。
でも姉貴に対するわだかまりは少し消えて、前みたいに話は出来るようになった。

受験の一週間前に、姉貴が部屋に入ってきた。
俺は滑り止めには受かったけど、本命は少し無理をしているからあともう一息ってとこだ。

「おじゃまします」
「長居すんなよ」
「千里クンの方がウチの部屋に居た時間が長い」
「ははっそうだな」
「あのね、マフラー作ってみた。もらってくれる?」
「すごいじゃん、手編みだ。いつのまに?」
「頑張りましたよ?」
「受験に持って行く」
「ありがと」
「そりゃ俺のセリフ」

《よっしゃ、マフラー貰た!》
本当に嬉しかった。人生で初めてマフラーをもらった。
それが姉貴であっても、手編みのマフラーだ。
俄然、勉強に熱が入った。

そして受験日はあっという間に過ぎて、合格発表。
高校は自宅から近いし、直接歩いて見に行くことにした。
発表時間は13時からで、県内の高校は半ドンになっていた。

志望校の掲示板前。

《・・・・あれか?あった!!!》

見事合格。
同級生も結構受かっていて、事務室で書類を受け取り、中学校へ結果報告をしに行った。
中学校の公衆電話から父母の会社へ報告して、自宅へ。
卒業したての中学校なのに少しだけ懐かしく、つい元担任と長話をしてしまった。

だから家に帰ったのは15時くらいだった。
玄関の鍵を開けて、ノブを廻す。

《あれ?鍵締まってる?っていうか、もともと開いてた?》

不審に思い、玄関を入る。

《姉貴の靴がある。そうか、姉貴は半ドンだっけ。》

俺は上機嫌で姉貴を驚かしてやろうと考えた。

そっと足を忍ばして、姉貴の部屋へ。
《音楽が聞こえるからいるな》

”がちゃ”
いきなりドアを開けた。

あれ、誰もいない。
「姉ちゃん?いないの?」

ふとベッドで布団に潜っていた姉貴が顔を出す。
「千里クン、お帰り。どうだった?」
笑い顔で聞いてくるけど、目が赤い。
「受かった。父ちゃん母ちゃんにも連絡した。っていうか、何があったん?」
「・・・良かった・・」
姉がぽろぽろ泣き出した。
うれし泣きもあるみたいだけど、何か雰囲気が違う。
「どうしたの?何があったのよ?」
「そ・・の・マフラーが・・みたら・・泣けて・き・た」
泣きじゃくりながら姉が呟く。

マフラー?
今更ながら気付いた。

《このマフラーって、彼氏にやる予定が狂って俺に廻ってきたんじゃ?》

「姉ちゃん、顔見してみろよ」
布団から出た姉貴が黙ってベッドに腰掛ける。
目が真っ赤だ。

「姉ちゃん、彼氏と何があったの?」
「・・・別れた」
「なんでよ!」
「千里クンには関係ないよ・・」
「なんでよ?姉貴にこんな思いさせる奴は許さん」
「やめて、もうどうにもならないの」
「いいや、ぶっ殺す。奴の住所教えて!!」
「千里クンが行ってもどうにもならないの。」
「畜生っっ。それいつの話よ?」
「・・マフラーを千里クンに渡した日」

はぁ?あの日姉ちゃんは笑いながら渡してくれたぜ?

畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生

姉貴にこんな思いをさせた男に殺意が本気で芽生えた。
と同時に姉貴が今まで以上にいとおしく思えた。
姉貴を思わず抱きしめた。

「千里クン・・・・」

姉貴も腰に手を廻して抱きしめてくる。

わけのわからないこの感情!!
猛烈な欲情が押し寄せてくる。

「姉ちゃんっ」
ベッドに姉貴を押し倒す。
本当に押し倒す感じで。
「きゃっ」
「ごめん」

姉貴の顔がめちゃくちゃ近い。
お互いの吐息を感じられるくらい。

「ううん、大丈夫。ね、千里クン」
「なに?」
「ウチのこと心配してくれてるの?」
「別に心配してねぇよ。ただ姉ちゃんのこと泣かす奴が・・」

そこまで言って俺も泣けてきた。

泪が姉貴の頬に落ちる。
そっと自分の頬を拭って、指先を軽くなめる姉貴。

色っぽいって感情はこう言うことなのか・・・
衝動的に姉貴の唇に俺の唇を重ねる。

初めて人の唇の感触を知った。
暖かい。そして柔らかい。

不意に姉貴の舌が入ってくる。柔らかいけど何とも言えない弾力。
「んっっ・・」
姉貴の声が漏れる。

《やべっ。俺、姉貴にめちゃくちゃ欲情してる》

止まらない。

俺の右手が自然に姉貴の胸にいく。
制服のブラウス越しに感じる姉貴の胸の感触。
一緒に風呂入ってた頃は、くすぐり合いで触ったことはあるけど・・・
あの時とは何か違う、指先から伝わる歓喜の感触。
姉貴は目を閉じてされるがままだ。
俺は姉貴の横に座り直し、ブラウスのボタンを外す。
ブラウスの前がはだけ、タンクトップに浮かんだ形のいい膨らみ。
そっとタンクトップをズリあげる。姉貴は背中を軽く浮かす。
ブラが現れた。薄いピンクのシンプルなブラ。
そっとブラの上から揉んでみる。
「んっっ・・」
姉貴の吐息が漏れた。

柔らかい。改めて思う。
もう我慢出来ない。
姉の背中に手を廻し、ブラを外そうとする。
《ブラってどうやって外すんだ?》
経験が無いからわからない。でも我慢出来ない。

ブラの下から手を入れて捲くし上げようとする。

そのとき、姉貴が小さな声で言った。
「千里クン、ブラ壊れるよ。それに・・・」
姉貴の一言で、少し冷静になった。
「ごめん」
「ううん、謝らないで。千里クンも男の子だねって思った」
なんか姉貴が微笑んでる。
凄くうれしくて、思いっきり抱きしめた。

「千里クン、痛いし冷たい」
「えっ?」
「ボタン」
姉貴が制服のボタンを摘む。
帰宅してそのまま姉貴の部屋に来たから、学生服のままだ。
「あっ、ごめん」
「ねぇ、千里クン」
「なに?」
「今日、千里クンの合格記念日だね」
「そうか、忘れてた。姉貴をおどかそうと思って、玄関からそのままここに来たんだ」
「逆にビックリさせちゃったね、ごめん」
「こっちこそ。大声だしてごめん」
「ほんとだよ、ビックリした・・・。ウチ、泪と鼻水で顔ぐちゃぐちゃだね。」
「ははは」
「・・ねぇ、シャワー・・浴びてきていい?」

《!!それは・・》

「じゃあ一緒に入る」
「馬鹿だなぁ。シャワーだから一緒には入れないよ。風邪ひいちゃう。ウチが先に浴びてくるから、千里クンはその後浴びてきて?」
「わかった」

姉はベッドから起きあがると、はだけたブラウスそのままでシャワーに行った。
俺は姉貴のベッドに腰掛けて姉貴の部屋を見渡す。
《久しぶりだな、姉貴の部屋。最近姉貴の部屋から声が聞こえなかったから、無線やってないんだろうな。いやいやそうじゃなくて、俺、姉貴とするのかな?姉貴は初めてじゃないよな。っていうか俺たち姉弟じゃん》

俺の頭は混乱していた。

そのうち、姉貴がシャワーから帰ってきた。
姉貴はリーバイスの626とトレーナーに着替えている。

《ブラしてるなぁ。うまくはずせるかな?》

「千里クン、シャワー浴びてきて・・」

さっきより少しさっぱりした顔で、姉貴が促す。

《俺にシャワー浴びろって事はそういうことだよな》

「うん、すぐ浴びてくる」
俺もシャワー浴びに行った。

いきり立つ息子をなだめながら、シャワーを浴びた。
俺も部屋着に着替えて姉貴の部屋へ戻った。
「ただいま」
「お帰り。」

姉貴が布団から顔だけ出している。

「寝袋かョ。ってかアザラシか、それ」
「うるさいなぁ。黙って布団に入るの」
「布団っすか」
「布団っすよ」

俺が帰宅したときと違って、姉貴は上機嫌になってる。
うれしかった。

そして布団に入ろうと掛け布団を捲ろうとしたら、
「だめ、捲らず入って」
「なんなのよ、アザラシはさっきから」
最低限だけ掛け布団を捲って中に入る。

納得した。アザラシと布団を捲ってはいけない訳が。

姉貴は全裸だった。

「ねぇ、千里クンも脱いで」
「うん」

姉に促され俺も服を脱ぐ。

「こうやって一緒の布団にはいるの久しぶりだね」
「そうだなあ。小学校の頃に爺ちゃんの家に行った時が最後かな」
「そうだね。なんか懐かしいね」
「姉ちゃんの裸を見るのも久しぶりだ」
「ばーか。スケベ」

姉貴が不意にわき腹をくすぐる。

「うわっ。ちょ、まじでっっっw」
「やっぱりここくすぐったいんだ」
「やめれっっw、死ぬって」

《どうも姉貴のペースで進むなぁ》

「ねえ千里クン」
「なに?」
「千里クンしたことある?」
「ねぇよ。中3だよ、俺。姉ちゃんはどうなのよ?」
「ウチはいいの。」
「あっさりかわしやがって。姉ちゃん、これだめだろ」

姉貴の耳にそっと息を吹きかける。

「わっっっ!それ反則っっっw」

お互いくすぐり始めた。
姉貴に彼が出来るまではけっこうベタついてた。でもそのときと今は違う。
姉貴の布団に入って二人とも全裸だ。

姉の体温を直接自分の肌で感じてもいる。
人の体温の暖かさを実感した。

ベッドの上でお互い向き合ってくすぐり合いをしている中、不意に姉の胸に手がいった。

姉の動きが止まる。

「いい?」
「・・・・うん」
か細い声で返事をする姉。

さっきと違って直接さわっている。
柔らかな、でも弾力のある膨らみを揉む。

多分、俺は世界で一番幸せだ。
姉は黙って目を閉じている。
手のひらの真ん中あたりに硬くなった感触を感じる。
そっとそれを摘む。
「・・ん・・」
姉の吐息が漏れる。

「だめ?」
「ううん。・・・千里クンのしたいようにしてくれていいよ」

黙って俺は右手で乳首を摘みながら左手で胸全体の感触を楽しんでいた。

「姉ちゃん、俺、姉ちゃんの裸が見たい」
「いままでさんざん見てるよ。それに今、見る以上のことしてるじゃん」
「そうなんだけど・・・」
「わがまま者め。布団ちょっとだけ跳ねる?」
「うん。ありがと」

布団を上半身だけ跳ねる。まだ3月だし寒いかと思ったけど、ヒーターが効いてるのか寒くはない。

まだ時間は4時。少し暗くなったかなというくらい。

カーテンの明かりに照らされる姉貴はすごく綺麗だ。

「あんまりろじろ見るな」
姉貴が仰向けになって手で胸を隠す。

《すげえかわいいよ、姉貴》

そのまま姉貴に覆い被さり、唇を重ねる。
今度は俺から姉貴に舌を入れる。
姉貴が舌を絡ましてくる。
お互いの粘膜がからみつく、何とも言えない快感。
姉が俺を抱きしめてくる。

かわいい、姉貴。

お互い強く抱きしめあう。姉貴の胸が俺の胸板にあたる。
胸の先端の突起も。

「ねぇ姉ちゃん」
「なに?」
「胸、吸ってもいい?」
「・・さっきいったじゃん、千里クンの好きにしていいって。何も聞かないで。」
「ありがとう」
「ぁ、待って。吸うなら赤ちゃんみたいに」
「何それ?」
「いいから」

姉が俺の背中に廻していた手をほどく。

そっと乳首を口に含む。

ピクッ
姉の体がのけぞる。
「あ・・ん・・っ」
乳首を舌で転がす。
その動きにあわせて姉の吐息が漏れる。

「あ・っ・・赤ちゃんっ・・て・・そんな・・吸い・方・する・・のか・な」
「ごめん、わかんない」
「あはは、そうだね」
不意に姉が笑う。

俺は憮然としてしまう。
「なんで赤ちゃん?」
「赤ちゃんいいなって思った。ほしい訳じゃないけどウチの赤ちゃん、千里クン見たいになるのかなって思ったんだ」
「そっか・・・痛かった?」
「ううん。そんなこと無い」
「よかった。俺、よくわからないから」
「だから、気にしなくていいの。今日は千里クンの好きにしていいんだよ?」
「ありがとう。じゃ、また吸っていい?」
「聞かないの」

また姉の乳首を口に含み、舌で転がしたり吸いつて持ち上げ、ぱっと離す。
そのたびに姉貴の声がでる。
反対の乳首を指で摘む。

もう姉は溜息や吐息でなくて、喘ぎ声だった。

不意に姉の手が伸びて俺の愚息にふれる。
「さわってもいい?」
「いいけど・・・照れるな・・」
「ウチも一緒だよ」

姉貴の手が触れるか触れないか位で触ってくる。

「ね、千里クンの見せて」
「姉ちゃんこそ今までさんざん見ただろ」
「そんな目で見てないもん。それに・・」
「何よ?」
「お風呂で見たときは、こんなになってないもん」

《彼氏のさんざん見てるんだろうが》
思ったけど口には出せない。

俺がうじうじしてると、
「じゃあ横になって。さっきみたいに」
いわれるがまま、姉貴と向かい合って横になる。

そっと姉貴の手が触れてくる。
「固い・・」
俺「*[p;@l:i=}」
今度は俺が声にならない。
初めて人に触られた。自分の手とは全く違う快感。

「やっぱり見たい」
「・・・」

俺は返事なんてまともに出来ない。

「もぅ」
そう言って布団をはねのけた。

「ちょ、姉ちゃん、何すんのよ」
「グダグダ言わないの」
姉貴が強引に俺を仰向けにさせる。

《冗談抜きで恥ずかしい!!》

お構いなしに姉貴が四つん這いになってまた触ってくる。
今度はさっきと違い、強弱をつけて触る。

ちょっと前まではあまり気にしなかったけど、俺は仮性包茎。
人に無理に剥かれると少し痛む。

「イテ」
「ごめん、痛かった?
「ちょっとだけ。先の方は直接触られると痛いんだ」
「ごめん、ウチ下手だね」
「そんなこと無いよ・・・・・・気持ちいい」
後半は恥ずかしくて、小さい声になった。

「痛かったら言って。千里クンいっぱいウチを気持ちよくしてくれたから、ウチも千里クン気持ち良くする。
「強くしなければ大丈夫だとおも・・う」

もう俺は姉貴のされるがままになっていた。

姉貴は四つん這いで俺のを触っている。

上半身を起こし、姉の胸に手を伸ばす。
乳首を軽く摘む。

「あんっ」
でも姉貴は手の動きを止めない。
俺も姉貴の乳首を摘む。
姉は喘ぎ声を出しながら、四つん這いで俺のを触っている。

「ねぇ、キスするね?」
「うん」
俺も姉とキスがしたかった。体を起こそうとすると
「だめ、動かないで」
「?」
「ここにキスするの。だめ?」
「!!えっ!!」
思わず大声がでる。
「いや、そんな。ってかあの@;-urf0+^L」
何を言ってるかわからない俺。
「だって千里クン、気持ちよさそうなんだもん」

《彼氏にもこんなことしてたのかよ》
不意に頭をよぎる。

「でも・・」
姉貴は何も気付いてない。握ったままこっちを見てる。
俺のもビンビンになったままだ。

姉貴が無言でくわえた。
「キスじゃ無いじゃん`*?、<@?[/@*」
もう混乱しまくりの俺。

”はむっ”
エロマンガの様な擬音をたてて姉貴がくわえる。

強烈に生温かい淫靡な感触。
くわえたまま舌が這いずり回る感触。
今までに感じたことのない、快感。
そして上下に動き出す。
「姉ちゃんっ」
思わず叫ぶ。
姉貴は動きをやめない。
時間の感覚がわからないくらい、姉貴はそれを続けた。

突然
「ぷはっ」

「どうしたの」
「息が苦しい」
姉貴は息を止めてやってたらしい。

「気持ちいいの?」
少し息を切らしながら姉が聞いてきた」
「・・うん」
「千里クン、『姉ちゃん』って叫んでたもんね」
「言うなよ、恥ずかしい」

姉貴は得意げな顔をしている。

「男の人のってこんな感じなんだね」
「えっ?姉ちゃん、彼氏は・・」
《やべっ。言わないでおこうと思ったのに》

「そりゃバージンではないけど・・・。でも間近で見たり口でしたこと無いもん」
そういって、俺の先に軽くキスをする。

「わっ」
姉貴が大声を出した。
「今、ピクって凄く大きくなった」

「俺、凄く気持ち良かった。俺も姉ちゃんを気持ち良くしたい」
「ううん、いいの。千里クンに気持ち良くなって欲しいから」
「でも・・・」
「どうしたのよ、いつもの強気は」
「なんか姉ちゃんが強気だな、今日は」

ベッドの上に座って姉貴を見る。
姉貴もベッドの上に座っている。

「なに?」
「いや・・・姉ちゃん、こんなに綺麗だっけか?」
「何言ってるのよ、改まって。ふふ、今頃ウチの魅力に気付いたか?」
姉貴が得意げに胸をはるから、ふくよかなバストが強調される。

そして、姉貴の唇。

さっきまで俺のをくわえてた唇。
怪しく濡れて凄く綺麗だ。

多分当時の俺なら、姉貴以外の女性が俺のをくわえた唇に嫌悪感を感じていたかもしれない。
でも、姉貴のは違った。凄く綺麗で、愛おしい。

思わず、姉貴を抱きしめた。

姉貴の唇に唇を重ねる。
どっちからでもなく、お互いの舌が絡み合う。
淫靡な音が気分を盛り立てる。

この舌と唇が俺を気持ち良くしてくれたんだ・・

座って抱き合いながらキスを続ける。
姉貴の手がまた伸びてくる。
「ウチももっと千里クンを気持ち良くしたい」
「俺も・・」

俺は逡巡していた。
姉を抱きたい。最後までしたい。
でも・・

姉弟だし、恋愛感情なのか欲情なのか自分でもわからない。
でも・・・

「姉ちゃん、俺最後までしたい」
《俺、言っちゃったよ》

「聞かないの。千里クンのしたいようにすればいいんだよ」

姉貴・・・

「有り難う。でも俺初めてだから・・」
「関係ないよ。しよ?横になろうよ」
姉貴に言われるまま、二人で横になる。

「跨がってくれる?」
姉貴がそっと足を開き、そこに跨がる。
姉貴が俺のに添えるように手を伸ばす。

「そのまま・・挿れて・・」
蚊の泣くように姉貴が言った。

腰を屈めて下半身に力を入れる。
先にヌルっとした感触がする。

「んっ・・そこ・・」
姉貴の声が上擦る。さっきまでとは明らかに違う、鼻にかかるような声。

ぐっと俺を突き出す。

生ぬるい、粘液のトンネルのような中に入っていく感触。
姉貴の声がさらに上擦る。
さらに力を入れ、奥まで押し込む。

さっきくわえられたときとは違う、生々しい感触。
言いようのない快感。

そして・・・多少の痛み。包茎だからか、強く剥けると痛みが走る。
姉貴に締め付けられるたび、快感と痛みが交錯した。

けれども姉貴は違った。

「ああんっっっ」
姉貴の声がひときわ大きくなる。

もう夢中で突いた。
自分の痛みより姉貴を気持ちよくしたい。
俺の動きにあわせて姉貴も声がでる。

激しく切なく甘く

姉貴・・こんな表情するんだ。

姉貴の口にそっとキスをする。

激しく動かず、ゆっくりと突く。

「っっぅん・・あんっ・・っんん」
くぐもった押し殺した声。

姉貴の声が激しく、唇を重ねていられない。
そっと唇を離すと、また喘ぎ声が激しくなる。

体を密着させて首筋にキスをする。
「ひあぁっっぁぁ」
一瞬、さらに声が大きくなる。

姉貴・・・姉貴・・

くそっ姉貴かわいい。愛しくてたまらない。

「ねぇ千里クンっ・・あんっ・・気持・ち良くなって・る?ああんっっ」
姉貴が息も絶え絶えに聞いてくる。

「うん。姉ちゃんの中、ぬるぬるして熱い」
本当に気持ち良かった。こんな快感、気持ちいいの一言では表せない。

「ねっ、・・ちょっ・と・・待って・・そこの・・カレンダー・・とって」

下半身を密着させたまま、手を伸ばして卓上カレンダーをとり、姉貴に渡す。

息を切らしながら先月のカレンダーを見てる。
何か納得したのか、カレンダーをベッドサイドに放り投げる。
姉貴が微笑む。

「ねぇキスして」

姉貴に覆い被さり、キスをする。
舌の感触が俺の気持ちを盛り上げる。

姉の上に被さって挿れたまま、
「今日、なにか予定があるの?」
姉「あはははっ。そっか、カレンダー見たから?」
姉貴は微笑む。

くそっ。なんだよ、馬鹿にして。

思いっきり激しく突く。
激しくつく分、俺の痛みも増加する。
でも・・それ以上に姉貴のあえぎ声に興奮していく俺がいる。

「ああああああんっっっ」
姉貴の微笑がいきなり変わる。
さっきの切ない表情だ。

「ねぇ、さっきのカレンダー何?」
激しく突いたまま、姉貴に問う。
「んんnあんんnっっ、お  願い、言う から  っ。これ じゃ言え ない よ」

すっと激しい動きをやめる。
「何なの?」
姉貴は息をきらしたまま言う。
「あのね、今日は大丈夫なの」
「何が?」
「だから・・・今日は大丈夫な日」

!!そう言うことか。俺は大馬鹿だ。俺のことばかり考えてた。
学校の性教育で習ったのに。

「姉ちゃん、ごめん」
「謝らないの、安全日だから。本当に千里クンの好きにしていいんだよ」
姉貴が少し息を切らしながら話した。

「姉ちゃん、ありがとう」
姉貴に抱きつく。
「かわいい奴め」
姉貴が耳元とでささやく。

「ほかのかっこでもやってみよ?」
「うん、でも俺大丈夫かな?」
「まだ気にしてるの?ウチもこのカッコ以外ではしたこと無いもん。二人とも初めての事しよ?」
「うわぁ姉ちゃんノリノリ」
「ばーか、じゃ止める?」
姉貴が意地悪く笑う。

「いや、ごめん」
「じゃ、ウチと変わって」

姉に言われて、姉から抜く。
「あんっ」
姉貴の喘ぎ声が本当に愛おしい。

「じゃ、千里クン、横になって」
「どうするの?」
「千里クンがいっぱい動いて気持ち良くしてくれたから、ウチが動くよ?」

俺は黙って横になる。

「冷てっ」
シーツがビチャビチャだ。
「シーツ、凄いことになってる」
「恥ずかしいなぁ。言わないでよ」

冷たいと思いつつ、仰向けになる。
「これでいいの?」
「うん」
そう言って、姉貴は俺のを掴んでくる。
「さっきより固い」
そういって先にまたキスをする。
「わ、またピクって固くなった」
「・・・姉ちゃん、焦らしてる?」
「ごめん、だってこれかわいいんだもん。ピクってなるし」
「かわいいってなんなんだよ」
「ふふふっ。じゃ次じゃウチが上になって動くね」
そう言って姉貴は俺のを握ったまま、跨がってきた。

またさっきと同じ感触。
粘膜と体液を直接混ぜ合わす快感。
姉の中は、相変わらず熱い。

俺がゆっくりと姉の中に沈んでいく。

「んっっ」

また姉貴の喘ぎ声が漏れる。
俺の上でゆっくりと腰を振る。

最初は姉貴の動きはゆっくりだった。

膝立ちになり、ゆっくり上下する。
それにあわせて揺れる乳房。

すごく・・・綺麗だ。
手を伸ばして柔らかい乳房を揉む。

姉貴の喘ぎ声が少し上擦る。

乳首を摘む。
「はぁんっ」
ひときわ甲高い声で、姉貴が叫ぶ。
と同時に俺が激しく締め付けられる。

「姉ちゃん・・すごい・・気持ちいい」
「ん・ウチも・・ん・・ねぇ俺・くん」
「何?」
「んっ・・あのね・・お願い・・」
姉貴が切なさそうに、言う。
「お願・・い、胸・吸って・・・」
「うん」

上半身を起こして、身を屈め姉貴の乳首を吸う。

「ああんっっっ」
姉貴が抱きついてくる。そしてまた更に締め付けてくる。

「んっっ あのね、アンッ 千里クン ハァン まだイかない?」
「もうちょっと・・」
俺は快感と同時に痛みが続いている。

「っあのね、ウチ、んっ変な感じ」

姉貴の動きが滅茶苦茶早くなる。
俺にしがみついたまま、激しく動く姉貴。
抱きついてるから顔は見えないけど、多分さっきの表情してるんだろうな・・
そして姉貴の喘ぎ声がひときわ大きくなる。

「あのねっあのねっ」
繰り返す。
「んんっっはぁんっ」
姉貴が俺を強く締め付ける。痙攣してるみたいに、ビクビクって。

姉貴が急にぐったりする。息も絶え絶えだ。

荒い息づかい。
「ねぇ、わたし多分イっちゃった。ごめんね。ウチが千里クンをいっぱい気持ち良くしてあげたかったのに」
「そっか、姉ちゃんイって俺もうれしい。でも、もう終わりなの?」
口では言ってみたものの、これで終わりなら悲しい。

「ううん、大丈夫。でもウチが下になっていい?」
「うん。姉ちゃん・・・かわいいよ」
「千里クンもね」

そう言って姉貴が頬にキスをしてきた。
そのまま姉貴が横になる。

「冷たいw」
「俺もびっしょりだよ」
「もう・・恥ずかしいなあ」

姉貴の上に被さりキスをする。
そっと姉貴の胸を揉む。柔らかい。
「んんんっ。焦らさないで」
「あ、いや、胸が綺麗だなって思って」
「ありがと。でも早く。催促させないで」

姉貴の目が潤んでいる。

姉貴にそっと口づける。
そのままゆっくり挿れる。
さっきは姉貴が手を添えてくれたけど、今度は自分で挿れられた。

「んんっ 凄く気持ちいい」
「俺も。姉ちゃん凄くかわいいし綺麗だ」

さっきとは違い、ゆっくり動く。
姉貴の息が収まってなかったし、激しく動くと痛みより快感が勝ってしまいそうだ。
さっきのペースで動いたら、俺の限界があっという間にくる。

本当に至福の時間だった。
でも・・・

♪ピンポーン

玄関のチャイムが鳴る。
姉貴と顔を見合わす。
誰だろう?

”大江さーん”って声がすると同時に玄関が開く音がする。

《ヤベっ玄関の鍵開けっ放し》
不意に思い出す。
《となりのオバサンだよ。ちょ、勝手にあがることは無いだろうけど、勝手に玄関開けるなっ》

俺は気が気じゃない。その上さらにもう一人の声がする。
どうやら近所のオバサン二人が俺の合否を気にしてて、聞きに来たらしい。
しかもウチの玄関先で話をしている。

《大きなお世話っての。ってか人んちの玄関先でなにやってるんだ、早く帰れ。どうせ母ちゃんが帰るまで2時間くらいある。そこで待つ気かよ》

小声で姉貴に聞く。
「俺、出てこようか?」
「ううん、いいの。ね、続けよ?」
「でも声が・・・」
「激しくしなければ大丈夫、我慢するから」
「うん・・・」

俺はゆっくり動く。
激しさはないけど、抜ける寸前まで抜いて、ゆっくり奥まで挿れる。
ゆっくり動くと痛さが半減して、感覚が鋭くなる気がする。

うねる様に包み込んでくる、姉貴。

一気に絶頂が来た。
「姉ちゃんっ!!!」

奥まで突く途中でイってしまった。
少し情けない気分になる。

「・・イった?」
「・・・うん」
姉貴は気づいてないみたいだ。

そっと姉貴から抜く。
「んっっ」
姉貴が軽く声を出した。

姉貴にかぶさったまま、話をする。
「これがウチからのお祝い。これで千里クンは大人になったのかな?」
「なんだよ、それ」
「ははは・・。良くある話じゃん。オバチャンたちまだいるのかな?」
「声は聞こえないけど・・・見てこようか?」
「キスしたら行ってもいいよ?」
「うん」

姉と軽く唇を重ねる。
そそくさと服を着替えるのを、ベッドに横たわった姉貴が俺を見守る。

「じゃ、見てくるわ」
「うん」

2階の姉貴の部屋を出て階段を降りる。
階段を降り切って玄関を見ると、玄関ドアが半開きだ。
人の気配はない。

《なんじゃこりゃ!!!ババア、勝手に開けて開けっ放しで帰ったのかよ≫

あわてて玄関を閉め、鍵をかけた。

亀頭の痛さが気になり、トイレへ。
ぬるぬるしている。
まだ、事が済んだあとにティッシュで拭いて服を着るなんて考えつかないから、そのまま服を着ていた。

そっとトイレットペーパーで拭く。
《痛ぇ》
赤くなっている。

《セックスってこんなに痛いのか?気持ちいいけど痛いのか?
いつから痛くなくなるんだ?初めてだからか?俺はバージンの女の子か?》
とりあえず気持ち悪くない程度に拭いて、トイレをでた。

《のどが渇いたな》

台所に行き、ポカリを2本取り出す。
缶の冷たさが心地いい。

姉貴の部屋に戻ると、もう服を着ている。少し残念な気分。

「ん」
「ありがとう。ウチものど渇いてたんだよ」
一気に飲みほして姉貴が部屋を出る。
トイレを済ました後、倉庫に行ったみたいだ。何やってんだろ?

姉貴のベッドに腰掛けてぼーっと考えた。
《これって禁断のなんとかってやつだよな。俺たちどうなるんだろ。父ちゃんや母ちゃんが知ったら、ぶっ殺されるんだろうな》
悶々としてきたとき、姉貴が帰ってきた。

手には布団乾燥機を持っている。

「ねぇ・・・・・この部屋・・・匂うかな?」
「何が?」
「だから・・・・帰ってくるとき匂った?」
「ん?そういえばイカ臭い?」
「それは千里クンの部屋だよ?布団乾燥機かけようと思うんだけど、窓を開けて換気した方がいいよね?」

《そうか、確かに匂うかも知れない。ってか姉貴は何で気づくんだよ》
また少し悔しい気持ちになった。姉貴にはそういう経験があるということだ。

「布団が気持ち悪いんだ。これじゃ夜寝られないよ。シーツ換えて乾燥機かけるから、千里クンの部屋で待ってて」
「ん」

姉貴の部屋を出て、廊下の反対の俺の部屋へ。
ベッドの上に学生服が放り投げてある。シャワー浴びる前にあわて脱いだから、そのままだ。
学生服をハンガーに通し、ハンガーフックに掛ける。
《俺、クラスで一番早く経験したんじゃねえかな?これが彼女だったら自慢しまくりなのにな。
姉貴はどうだったんだろ?何人と経験したのかな?俺が初めてじゃないし。奴とは当然やってるよな》

ラジカセのスイッチを入れた。BOSTONのAMANDAが流れてくる。
後輩に卒業式の日に手紙と一緒にもらった。ラブレターではなかったが。
歌詞を頭で訳していたら、目が滲んできた。
姉貴に対する感情に大きく戸惑っていた。

また悶々としていたら、ドアを姉貴がノックしてきた。
「いい?」
「どうぞ」
「窓全開にして、乾燥機かけてきた。」
「そう・・」

姉貴が俺の勉強机に座る。

しばらく何も話さず、けだるい沈黙が続く。

ふと姉貴が机の上のリグに手を伸ばし、スイッチを入れる。呼び出し専用の周波数に合わせた。
スイッチを入れるのは久しぶりだ。
スピーカーから知らない連中達の声がする。知った声は・・・・無い。

「懐かしいね」
「うん」
「楽しかったね」
「うん」
「みんな元気かな」
「・・・・・」

姉貴がスタンドマイクのスイッチを入れる。
姉「フレンド各局、こちらJ○○○○○」

応答がない。
もう1回繰り返す。

知らない声しかしない。

ダイヤルを回し、周波数を変える。
いつもみんながいた周波数へ。

今日は公立高校の生徒はほとんどが半ドンだし、いつもだったら誰かがくだらない話をしていただろう。
みんないなくなったのは姉貴のせいだと思うけど、それは口に出さない。
無音が続く。誰もいない。

「静かだね・・」
一言いってスイッチを切る。

少し気まずい沈黙が続く。

姉貴が不意に口を開く。
「ねぇ千里クン、今日の事誰にも言わないよね?」
「うん。言わないというより言えない」
「良かった。だって男の子ってああいう事、自慢したがるもん」
「うん。そうだね」

女の子はどうなの?と言いかけてやめる。奴の事に触れることになるかも知れないし・・・・。

「私たち弟姉だよね」
「だよ?」
「ずーーーっと弟姉だよね?」
「死ぬまでな」

姉貴は何が言いたいんだ?

「第2ボタン」
「なに」
姉貴が制服を指さす。
「制服の第2ボタン、付いたままなんだ」
「え、ああ。卒業式で誰も欲しいって言ってこなかった」

嘘だ。
本当は卒業式の前の日、式の予行演習が終わった後に友達に理科室へ呼び出された。
行ってみるとクラスメートが二人。
二人揃って俺に告白してきた。真っ赤な顔で。
二人は親友のはずだ。
恨みっこ無しだから、どっちかに卒業式終了後に第2ボタンが欲しいという。
けど、丁重に断った。
恨みっこ無しなんてあり得ないし、そもそも俺は二人に惚れてる訳じゃない。
うれしくはあったけど、何か違う。

姉貴は無言で何も答えない。
《姉貴は卒業式に欲しいって誰かに言ったのかな》

「高校は女の子の方が多いんだよね」
「うん。といっても4:6位かな?」
「部活やるの?」
「どうかな?体育系はめんどくさいし、文科系もなぁ。まだ決めてない」
「そっか・・・」

姉貴は何が言いたいんだ?高校入って俺の周囲に女の子が多い事にやきもち焼いているのか?

「彼女できるといいね」

《!!!!!!》
胸を貫く激しい痛み。

やきもちを焼かれることへの期待とは反対の言葉が姉貴の口から出た事にショックを覚えた。

「どうかな・・・友達は今でもいるけど・・・・・どうかな」
「そうだね、高校入って楽しければいいよね。千里クンは高校卒業したらどうするつもりなの?」
「大学進学を考えてるけど・・・。姉ちゃんはどうするの?」
「ウチは就職だよ」
「だよな・・・」

姉貴は就職。社会人。大人になるってことなんだろうな。

不意に電話のベルが鳴る。

「ウチ、取ってくる」

姉貴が電話を取りに部屋をでて、階下に降りて行った。

一人ベッドに腰掛けてまた、思いを巡らせる。
「姉ちゃん・・」
呟く。

恋愛感情?姉弟愛?同情?欲情?劣情?性欲?
自身に問いかける、姉貴に対する想い。
たぶん、恋愛感情

いつから?
昔から?
夏に車で抱き合っていた姉貴を見かけたとき?
マフラーをくれたとき?
ベッドで目を腫らしていたのを見たとき?
そして・・・さっき姉貴を抱いたとき?

わからない。
姉貴を一人の女性として見たことはあったのかな?

不意にドアがノックされる。
「ねっ聞いて。お母さんが○○○で夕食しようって。お父さんも来るからみんなで。
18時30分に店の前に居てって。お祝いだぁ」

○○○は近所のステーキ屋。おいしいけど高くて、そうそう行ける店でじゃない。
店までバスだと5分、歩いたら30分位かかる。

「そっか。美味しそうだね。どうやって行く?」
「歩いて。おなか減らしていこ?」
「そうだね、あと1時間位したら出るか」
「うん、そうしよう。ご馳走だよ」

それからはベッドに腰かけて、いろんな話をした。
今朝の新聞記事、学校のこと、無線のこと、バイトのこと、将来の夢。
でも、奴のこととさっきのことは話に出なかった。
意識してお互いに避けている。

「そろそろ出よっか」
「うん」

二人揃って家を出る。
「久しぶりだね」
「何が?」
「こうやって二人で歩くの」
「そうだな」

「~♪~~♪」
姉貴が鼻歌混じりに歩く。
「機嫌いいな」
「そうかな?」

「♪~~♪~」
鼻歌が続く。
「それ誰の曲だっけ?」
「DulanDulanだよ?」
「あ、そのカセット持ってたろ?」
「今度ダビングして?そしたら返すよ」
「~~♪~~♪~」

やっぱり上機嫌だ。

すっかり暗くなった国道沿いを姉貴と二人で歩いていく。

「ね、手を繋ご?」
「いや、ツレとかに見られたらはずかしいよ」
「もう暗いから見えないよ。知ってる人がいたら手を離せばいいの!」
「・・・」
「もう~」
姉貴が強引に手を繋いできた。

久しぶりだな、姉貴と手を繋ぐの。
最後に繋いだのはいつだっけ?思い出せない。

店に着いた。
外から店内を見ても両親は見あたらない。
「いないね」
「うん。そこで待っていよう」
花壇を指さし、二人並んで座る。

《映画とかだったら、姉貴にハンカチ敷いてどうぞとか言うのかな?》
くだらないことを考える。

ふっと姉貴が手を握ってくる。
「いいよね」
俺は無言で頷く。

店に面した国道は、大した渋滞もなくいろんな車が走っていく。
風が出てきて、少し寒くなった。
「姉ちゃん、寒くない?」
「ちょっとだけ寒いかな?」

姉の手をほどき、上着のジャケットを脱ぐ。
そっと姉貴にかける。
「ありがと。千里クン、寒くない?」
「うん」
強がってみせる。ハンカチ敷けなかったし、少しだけカッコつけた。
また、姉貴が手を握ってきた。
二人とも黙ったまま、国道の車列を眺めている。

国道の車が一台、ウインカーを付けて店の駐車場に向かってくる。
「来たよ」
そう言って姉貴は手を離した。
姉貴の手があった俺の手に、少し冷気を感じる。

食事は結構淡々と進んだ。
上機嫌な親父。親父は無理だと思っていたらしいから。

俺が行く予定の高校の偏差値はかなり高い。
A判定が出たのは最後の模試だったし、親父は本当に無理だと思ってたみたいだから、かなり上機嫌だ
オフクロも同じように喜んでいる。ただ、帰りの運転手を仰せつかって飲めない事に不満を感じているみたいだが。

そして・・・
姉貴もいつも通りだ。何も変わらない。明るく両親と話をしている。
独り塞いでいるのは俺だ。
親父やオフクロが不思議がっているが、偏差値の高い高校へ進学することへの不安ととらえているみたいだ。
俺は姉貴にどう接していいかわからなくて、つい無言になってしまう。
でもステーキは旨かった。ミディアムとか言うの、初めて食べた。

食事を終えて店を出る。いつの間にか土砂降りになっていた。
駐車場の車まで4人で走って行き、急いで乗り込む。

オフクロがこわごわ運転する。いわく雨の夜は苦手だと。

少しだけスリルを感じて自宅に着いた。
もう9時だ。なんとなく家族全員リビングに集って雑談をする。
親父やオフクロが缶ビールを開けて二人が高校のときの話が始まった。親父のくだらない武勇伝とか・・・。

俺はあまりピンとこない。学校始まってないからクラスの雰囲気とか分からないし。
黙ってみなの話を聞いていた。

風呂が沸いて、俺から入浴することになった。
我が家は順番特に決まってないし、親父とオフクロはまだ飲んでる。

俺はそそくさと服を脱ぎ、風呂につかる。

《お湯がしみるなあ》
まだ赤い。でも今日はよくがんばったな、息子よ。
いつか痛くない日が来るといいな。
取り留めないことを考えているうちにのぼせそうになるので、体を洗い風呂を出た。

まだ3人はリビングでわいわいやっている。

姉貴は・・・。
《姉貴と二人でいたい》
でも3人の中から姉貴だけ呼び出すと、両親に怪しまれる気がした。
ちょっと前までよくあることだったと思うけど、今日は両親の目が気になる。

「疲れたし、寝るわ。お休み」
「お休み」
3人の声を背中で聞きながらリビングを出た。

自室に帰って勉強机に座る。椅子の高さが少し低く感じる。背が伸びたのかな?
雨が降っているせいか、今日はいつもより寒い。
トランクスとTシャツだけだと本当に寒い。
パジャマを着ればいいのだろうけど、この格好で年間通している。

椅子を立ち、ストーブのダイヤルを回す。レバーを引くと、ゆっくり火がまわり灯油のにおいが漂ってくる。

また勉強机に向かう。
スイッチとメインダイヤルに指跡のついた、埃にまみれたリグに手を伸ばし、スイッチを入れる。

あ、誰かいる。
「・・・・」「☆☆☆☆・・」「△△△・・」
スピーカーから聞こえるコールサインは知らない人だった。
机に頬杖をついて、しばらく聞き入る。タヌキウオッチ。

くだらない話をしている。
サザンの曲の歌詞とかおニャン子は誰がいいとか。

工藤静香?国生さゆり?河合その子?
馬鹿かお前ら。

《渡辺満里奈に決まってるだろうが》
独り毒づく。
彼女のポニーテールは世界で5本の指に入ることを知らないのか?

ま、姉貴のポニーテールは世界で一番だがな。
くだらない事を考えていた。

つまんねえや。寝る。

リグのスイッチと照明を消し、ストーブを消して布団に入った。
「姉ちゃん・・・・」
つぶやいて目を閉じる。
あまりにもいろんなことがあって、抜く元気も無い。
風邪で発熱しているとき以外は毎日の就寝儀式だったのに。
今日あったことを思い出しながら、いつの間にか深く眠っていた。

どんどんどん
「?」
どんどんどん

ノックというよりドアをたたきつける音。

「誰だよ、やかましいっ」
俺の寝起きの悪さは天下一品だ。不機嫌に答える

「ごめん、ノックしても起きてくれないから。千里クン、入っていい?」
《姉貴?》

「いいよ」
「あの~・・・寝てるところを起こしてごめんね」

姉貴が申し訳なさそうに入ってくる。
《姉貴が来た》
俺の不機嫌さは一瞬にして消えた。

部屋の照明をつけた。
「どうしたのよ?」
「今日さ、部屋の換気してたじゃない?」
「うん」
「窓閉めてなかった↓」
「!!!!マジでっ!!」
いっきに噴き出した。

「何だよ、それ。じゃ布団びしゃびしゃ?」
「うん。あそこで寝ると間違いなく風邪引く」
「納戸から布団出してくる?」
「ううん・・・・・」

少しまごつく姉貴。姉貴を見てると気持ちが和む。姉貴は切実なんだろうが。

「もうお父さんもお母さんも寝てるし、音立てて起こすのも悪いから・・・」

《歯切れが悪いなあ。何が言いたいんだ?》

「一緒に寝よ?」

《!!!!!!!!!》

「それって・・・」
「ごめん、勘違いしたら悪いから言うね。一緒に寝るだけ」
《やっぱり》

「ね、手を繋いで寝よ?」
「生殺しだよ、それ」
「ごめん・・・。納戸の布団出してくる」

《ちょっ、出て行くなよ。手を繋ぐだけでもいいから》

「わーったよ。いい。もう手を繋ぐだけ。後はなんにもしないから」
「ありがとう」
姉貴の満面の笑み。

《畜生、かわいい》

「じゃお風呂入ってくるから。先に寝ててもいいよ」
「寝ない」
「うん、ありがとう。じゃ入ってくるね」
パタパタと姉が出て行く。

《足音立てるなよ。両親が起きたらどうすんだよ》

ま、姉のやかましいノックで起きてこなかったから大丈夫だろう。

少しどきどきしながら、耳を澄ます。

どうやら起きてこないみたいだ。ほっとする。

さて、今何時だ?ベッドサイドの目覚ましを見る。
10時30分。まだそんな時間。
疲れてすぐに深い眠りに入ったことを実感する。
枕元においてあった漫画を手にして時間をつぶす。

11時少し前になった頃、姉貴がリビングのクッションを抱えて戻ってきた。

「お待たせ~」
「お待たせすぎなんだよ」
「女の子は時間がかかるの。千里クンなんか5分で上がってくることあるじゃん」
「カラスだから」
「ねずみ年だよ?」
「分けわかんねぇ~」

姉貴との何気ない会話で癒される。
寝るまでのなんとも言えない、不安と不満が混じった気持ち悪さはもう感じない。
でも姉貴を抱けない・・・。不満を顔に出したら多分姉貴は部屋を出て行く。
それはいやだ。

姉貴は俺の椅子に座ってドライヤーで髪を乾かし始めた。
姉「~♪~~♪~~~♪もちょっと待ってね~♪~~♪~~~♪」

《卑怯だろ、それ。わざとか?》
姉貴の髪を乾かす仕草から目を離せない。
俺は抱きしめたい衝動を抑えるのに必死だ。

姉貴がドライヤーのスイッチを切った。
急に部屋が静かになる。

姉貴がさっきと変わって少ししんみりした顔になった。
「ね、千里クン。手を繋いで寝るだけだよ。お祝いはステーキ食べた時まで、ね」
「・・・・・」
「ウチと千里クンは弟姉なの」
《分かってるよ、そんなこと》
だんだんいらいらして来た。
「もう寝よう。姉ちゃん、明日学校だろ?」
「うん、学校。今日はいっぱい疲れたから起きられるかなぁ」

俺は無言で布団に入り、ベッドの壁側をあけた。
姉貴は無言で俺をまたぎ、布団にもぐりこむ。

あ、照明消してない。

ベッドを起き出し、壁際の照明スイッチに手を伸ばす。
ベッドに目をやると姉貴と目が合う。

「消すよ」
「うん。でも豆電球つけて寝ない?」
「・・・・いいよ」

姉貴も何か感じるところがあるんだろう。

黙って布団に入る。

シングルサイズのベッドに二人寝ると狭い。
二人の肩がぴったりあたり、そのまま手を繋ぐ。

「千里クン?」
「ん?」
「眠い?」
「目が冴えたな」
「ごめんね。眠くなるまでお話しよっか?」
「いいよ・・・」

どうせまた、弟姉がどうとか言い出すんだ。
少しブルーな気持ちになる。

「横向いて」

黙って寝返りをうち、姉貴と向かい合う。

「顔見えなきゃね」
《だから豆電球か・・》

姉貴が話を続ける。
「千里クンは女の子好きになったことある?」
「うん。ある」
今がそうだ。即答する。

「あのね、女の子はね、いつでも男の子を受け入れられないの。
今日は大大丈夫だったけど、無理をしちゃだめだよ」
「わかってる。学校で習った」

すこしの沈黙

「近親相姦って知ってるよね」
「・・・うん」
「今日の千里クン、うれしかった。見直した。姉じゃなかったら本当に好きになってた」
《なんだよ、好きじゃないよって言うのかよ、口に出さなくてもいいじゃないか》

むっとした声で思わず、
「俺のこと、好きじゃないの?」
「ううん、そんなこと無い。ドラマとか映画言われるセリフだけど、世界中のみんなが千里クンの敵になってもは絶対見方。
大好き、本当に。でも弟としてなの」
「・・・・・」
「私の部屋の『日出処の天子』読んだことある?」
「うん」
「蝦夷と刀自古がやっちゃったところあるよね?覚えてるかな、そこの部分」
「覚えてる」
「昔から決まってるんだよ。子供ができても、かわいそうな子供ができるかも知れない」
「うん」

俺の涙が頬をつたう。
姉貴はそっと手を伸ばし、それをぬぐう。

「ウチね、夢があるんだ」
「どんな?」

「お母さんになるの」
「うん」
「きっとね、男の子が生まれる」
「決まってるの?」
「決まってる。そしてね、千里クンにそっくりな子供なの」

《何だよ、それ。俺、何も言えないじゃないか》

「・・ うん、分かった。でも俺の気持ちは本当の気持ちだよ」
「分かってる」

お互い、次の言葉を探すけれども見つからない。

「寝よっか。このまま豆電球つけてていい?」
「いいよ」
「お休み」
「・・・・うん」

向かい合って手を繋ぎ、二人とも目を閉じた。

でも・・・。寝られない。

そっと姉貴の乳房に手を伸ばす。
「服の上からなら・・・触ってもいいよ。でも手を乗せるだけにしてね」
「ありがとう」』

軽く胸を揉んでみる。

姉貴はベッドの反対側を向いてしまった。

ふぅ。
俺は軽くため息をつく。生殺しだ、これは。
さっきまで全く元気の無かった息子が元気いっぱいだ。

そのままトイレにいって抜く。

部屋に戻ると、姉貴は壁をむいたまま寝ている。
触ると起きるんだろう。
俺は姉貴に背を向けて横になった。

朝起きると、もう姉貴の姿は無かった。

一人起きだして台所へ行くと、オフクロが仕事に行く準備をしていた。
俺は入学式まで何も予定は無い。入学準備とかで高校に行く日はあるが、それは1日だけだ。
オフクロが仕事に出ると俺は一人だけになる。
午前中はだらだらテレビを見て過ごし、昼からツレの家に遊びに行く事にする。

昼食後はツレの家でスーパーマリオ2三昧だ。
その時は夢中になって、昨日の事なんてすっかり忘れていた。
馬鹿笑いしながらゲームをして、火照った体を冷やしながら薄暗くなった道を歩く。

日が暮れて風が吹いてきた。

だんだん昨日のことを思い出してくる。
初恋、初体験、そして・・・・失恋
一瞬で始り、あっという間に終わった。

「ただいま」

もうオフクロが夕食の準備をしている。
まだ俺とオフクロしか家にいない。

リビングでテレビをつけてもニュースしかやっていないし、
教育テレビを見るような年でもない。

「晩飯何時くらいになる?」
オフクロが不機嫌な声で、19時半くらいになる。姉貴が帰って来てすぐに食事になると言う。
あと1時間か・・・。

受験生のころは受験勉強に追われていたから、それなりに忙しかった。
最後の入試が終わってからの、この時間はいつも手持無沙汰だ。

何気なく時計の秒針を眺める。
いつもどおりに動いているはずの秒針が、いつもより時間をかけて進んでいく。

《姉貴を迎えに行こう》
姉貴に会いたい。一秒でも早く。

「コンビニ行ってくる」
そう言って家を出た。

小走りにバス停へ急ぐ。まだ姉貴の乗ったバスが着く時間ではないのに。
国道沿いにあるそのバス停は、誰もいなかった。
《その方がいい》

ベンチに腰掛け、流れていく車を眺めている。
昨日、姉貴と歩いたこの道。手も繋いだ。

「姉ちゃん」
ふと口に出る。
あわてて周りを見回す。
誰もいない。

《子供のころは良かったな》
何も考えずに遊んでいた。
裏山の小川にダムを作ったこと、夜更かししてカブトムシを探しに行ったこと、夏休みの海水浴・・・

この気持ちに気づくまでは楽しい思い出だった。
今は辛い思い出でもある。

目を閉じて思いに耽る。
辛いけど・・・辛いんだけど・・・・。

パシューッ
エアブレーキの音がした。
バスが着いたんだ。

姉貴がタラップを降りてきた。
「お帰り」
「ただいま。どうしたの?千里クン」
「迎えに来た」
「子供の出歩く時間じゃないよ」
「うるせぇ」

《でも俺は姉貴に大人にしてもらった》
姉貴はそんなことは考えもしないのだろう。

二人並んで歩く。

「姉ちゃん、カバン持つ」
姉貴のスポーツバックを奪う様に取り上げる。
「ありがと」

無言が続く。
姉貴はなぜ俺が待っていたのか聞かない。
《聞きようもないか》

姉を見てみる。
サラサラの肩までのセミロング。
風で髪がなびく。

「姉ちゃん、ポニーテールにはしないの?」
「どうかなぁ。めんどくさいしね。どうして?」
「ポニーテールが好きだから」
「そうだったんだ。じゃ、おニャン子だったら誰が好き?」
「渡辺満里奈」
「高井麻巳子じゃなくて?」
「うん。でも好みの芸能人はちがうなぁ」
「だれ?」
「仙道敦子」
「マニアックだなぁ。アイドルじゃなくて女優じゃない?」
「いいの」

会話が途切れる。

もっと姉貴と話をしたいんだけど、話が続かない。緊張している。

「姉ちゃん」
「ん?」
やっちまった。思わず口に出てしまった。

「ごめん、なんでもない」
「ね、そこの公園寄って帰ろうよ?」
「そうだね、久しぶりだ」

子供のころはよく来ていた。
ブランコ、缶けり、砂遊び、鬼ごっこ

「あれ座ろ」
姉貴がブランコに向かう。

「もう低いな。ちっちゃい時は足が届かなかったのに」
「ほんとだぁ」

無言で静かにこぎ始める。
足が地面に引っ掛かってこぎづらい。

「あ、あそこのベンチにアベックがいる」
「ほんとだ。でも俺たちみたいに兄弟だったりして」
「じゃ、うちらもアベックに見えるかもね」

昨日の雨とは打って変わって、今日は少し暖かい。

「昨日はありがとう。風邪引かなくて済んだし、お父さんたち起こさなくてもすんだし」
「おっちょこちょい過ぎるよ。布団が濡れても乾かせばいいけど、泥棒が入るよ」
「そうだよね。朝、お母さんにそう言って怒られた」
「ま、俺にとってはいいことだったけど」

《蒸し返してしまったかな》
軽口をたたいた事に軽く後悔する。

「あのね」
「なに?」
「千里クンもいつか結婚するの」
「・・・・」
「きっと千里クンはとっても素敵なお嫁さんができるよ」
「・・・・」

何も答える事が出来ない。構わず姉貴は続けて言う。

「そしてね、奥さんと私と千里クンと3人で旅行に行くの」

「でも事故に会うの。目の前の道が崩れて、お嫁さんと私が落ちそうになっているのを、千里クンが捉まえてくれる」

「でも一人しか助けられないの」

「絶対にお嫁さんを助けてあげてね。約束して?」

畳み掛けるように姉貴が話してくる。

「・・・分からないよ。そんなありもしない事、想像できない」
「もしお嫁さんの手を離したら、私許さない」
姉貴の語尾が少し強くなる。本気だ。

「分からない」
そう言うしかなかった。
「帰ろっか。おなかすいちゃった」

姉貴がブランコから立ち上がり、言った。
「約束だよ」

だまって姉に続く。
「でもね、千里クンの事大好きだよ」
「うん」

無言で二人歩いて帰宅した。

「ただいまぁ。おなかすいちゃったよぉ」
姉貴は明るくオフクロと話を始めた。

俺はTVの方を見ながら食事をする。
塞いでいる俺をオフクロは心配しているみたいだが、俺は適当にあいづちを打っていた。

「千里クン、黙ってご飯を食べるとおいしくなくなるよ?」
「うん」

姉貴が俺の口を開くきっかけをくれた。

「姉ちゃん、春休みなるよね。予定は?」
「バイト。もうず~っとバイト。お姉ちゃんはがんばるョ」
「そっか。忙しいんだな・・・・」

姉貴と遊びに行こうと思って聞いたのだが、結果は予想外の回答だった。

俺はいつもこうだ。聞かなきゃよかった。

オフクロが口を挟む。
知り合いの新聞配達所が手伝える人間が欲しいと言ってるらしい。
俺にやる気があるなら、電話をしてやると。

今晩考えて明日の朝に返事をすることにした。

夕食後の姉貴は実習の宿題と準備で忙しいと言い残し、自室にこもっている。
リビングでテレビを見ていると、親父が帰宅してきた。
また親父の武勇伝聞くのめんどくさいし、俺も自室へ。

ベッドにうつぶせ、バイトのことを考えていた。
どうせ家にいたって姉貴は忙しい。
《バイトすっか》
よし、決めた。朝になったらオフクロに電話してもらう事にする。
《金もらったら何買うかな?》
少し期待が膨らむ。

まどろみ始めたころ、ドアのノック音。

「どうぞ」
「お邪魔します~♪」
「・・・いらっしゃい」
「さっき言い忘れたことがあって・・・」
《なんだよ、いまさら》

「朝起きたときに、千里クンにお願いしたかったんだけど・・・寝てたから。ね、第2ボタンちょうだい?」

予想外のお願いに戸惑う。

「へ?第2ボタン」
「いいよね、誰もいるって言わなかったんだから。それに千里クンの高校はブレザーで学ランじゃないし」
「ああ、いいよ」

ベッドからおきだし、ハンガーフックの学ランを手にする。
もう着ることは無いだろうし、誰かのお古にまわるという話も聞いていない。

ハサミで糸を切っていく。

「ちょ、千里クン、第2ボタンだけでいいよ」
「だって、第2ボタンだけはずしてここに置いてたら、間違いなくオフクロになんか言われる」
「ん?・・・。そっかぁ。でも第2ボタンはいるけど、後はいらない」
黙って姉にボタンをはずす。

「バイト頑張りなよ、楽しいかもよ?」
そういって姉貴は部屋を出て行った。

《お袋が仕事行くまでには起きなきゃな》
そう考えながらその日は寝た。

「おはよう」
「その格好、いいかげん何とかしなよ。パジャマくらい着たら?」
「もう覚えてないくらい昔からこの格好だから、パジャマ着たら暑くて死んじゃうよ?」
「千里クンのパジャマ姿を最後に見たのいつだっけ?」
「覚えてないな」
「あ、バス出ちゃう。じゃ行ってくるね。バイト頑張って!」
そう言って姉貴は出て行った。

今日は姉貴が出るまでに間に合った。

オフクロにバイトすることを話し、段取りをつけてもらい、昼からバイトの面接が決まった。
そして、午前中は部屋の模様替えをして時間を過ごした。

バイトの面接で聞いた話しは、
?朝のチラシ折込
(2:00~)
?朝刊配達
(5:00~)
?夕刊配達
(15:00~)
?翌朝のチラシ折込準備
(夕刊配達が終わり次第~)
だった。
すべて人手が足りないけど、全部は無理だろうから出来るパートを手伝って欲しいとのこと。

少し考える。
多分、家にいても姉貴のことばかり考えて、辛い気持ちが膨らむばかりだろう。
どうせなら姉貴のいない時間帯はすべてバイトにしたかったが、時間帯が逆だ。
???のバイトをすることにした。これなら姉貴のいない時間帯は寝て過ごせる。
その場で決めた。

バイトは思いのほかきつかった。
朝4時に起き、バイトに行く。
7時くらいに帰り寝る。
15時にまたバイトに行き、21時くらいに帰る。

たいした給料では無いけど、働いた充実感は得られた。
ただその給料は春休み明けに使い切ってしまったが。

そして長い春休みは終わり、昭和62年4月、俺は高校1年生、姉貴は3年生になった。
姉貴は普通どおり生活をしている。若干就職活動で忙しくはあるみたいだけど。

俺は・・・・
姉貴との関係を壊したくない。
でも手を伸ばせる距離に姉貴はいる。
二律背反のこの思い。

いつか笑って姉貴の関係を思い出せる様になる事を信じて、自分を制していた。

そして学校生活ではもっと俺が追い込まれることが起きた。

だんだんクラスの中で交友関係がはっきりして来た5月の始め、
俺は話をしたことの無い女子に放課後、一人で教室に来て欲しいとい言われた。

何の用かわからないが、断る理由も見つからず、SHRが終わった後教室に残っていた。
ひとり、碇シンジが何も知らず付き合って残ってくれていたが帰るよう促し、
教室に残ったのは俺一人になった。

《誰かに告白する仲介役か?》
不信に思いながら自分の机についたまま、外を眺めていた。
校舎5階にある教室の窓際のその席から眺める景色は、
まだ自分の見慣れた景色になっていない。

グランドでサッカー部と野球部の連中がランニングをしている。
部活をするのか、何もしないのかまだ決めかねていた俺は、

トラックを走る集団を頬杖をついて眺めていた。

《体育会系はめんどくさいな。1年以上体動かしてないし。どうすっかな》
あれこれ考えていた。

教室のドアが開く音がした。
振り返って入り口に目をやる。

そこにいたのは声をかけてきた女子のほかに2人。
そのうちの一人はクラスの女子を締めつつあるジャイ子だ。
3人とも話をしたことはほとんど無い。
が、ジャイ子以外の2人は彼女の取り巻きであることは、わかっている。

何か不安を感じる。
それが何かわからないけど・・・。

「待たせた?」
「何か用?」
「大江くん、今付き合ってる人いるの?」

《??》

単刀直入な質問に戸惑う。今の俺に付き合っている人なんているわけが無い。
そして、それが叶うことが無いことも知っている。

「いないけど」
「じゃあ、私と付き合わない?」

《今何って言った?》

ジャイ子が付き合えと?よく意味がわからなかった。

取り巻きが囃し立てる。
「いいじゃん、付き合いなよ」
「お似合いだよ~」

だんだんジャイ子の発した言葉の意味が理解できてくる。
俺の握り締めた拳と背中に汗が噴出してくるのがわかる。
《ふざけんなよ。お前は俺の何を知っている?》

少なくとも入学式前に顔を真っ赤にして告白してきた2人は、親しい友人だった。
どちらかに俺も好意を抱いていれば、それなりの付き合いはしていただろう。
どちらの好意にも応えることができない俺は、丁重に謝るしかなかった。

だがジャイ子、お前は別だ。お前は俺の何を知っている?

「それは俺とジャイ子が付き合うってこと?」
「そう。私さぁ初めから大江に目を付けてたんだよね~」

ジャイ子の一言一言が俺の気持ちを逆なでする。

「わりい。俺、お前に興味ない。好きな人いるんだわ」
一言だけ言って教室を去ろうとする。

取り巻きの女子二人が何か文句を言っている。
《お前ら最低だ》
そう思いながら3人を残して教室を出た。
後味の悪い1日だった。

1週間くらいしたころ、クラスの雰囲気に違和感を覚えだした。

SHRの時は出席番号順に並ぶ。
俺の前の席は碇シンジだった。
こいつはお調子者で、クラスの中でもひときわ明るい。
誰とでもわけ隔てなく話しをするし、いろんな奴を笑わせている。
俺の隣の中学校出身ということで近所ということもあり、話がよく会う。

ある日SHRが終わった後、彼に呼び止められた。
「大江ぇ、帰りにゲーセン寄って帰ろうぜ?」
「いいね。なんか勝負すっか?」
「ファイナルラップ?」
「・・・それ苦手なんだわ、俺。じゃテトリスもやろうぜ?」
「いいねぇ」

二人の通学路の共通部分の最後の位置に、とあるゲームセンターがある。
ボーリング、ビリヤード、ゲームセンター、パチンコ屋が一つの建物に同居した複合施設だ。

そこで財布の中が空になるまで、ひたすらゲームをした。
「お前、テトリス強えな。完敗じゃねぇかよ」
「お前こそファイナルラップ、得意中の得意じゃん。手加減しろっての」

ゲームで興奮した体をゲームセンター入り口のベンチに座り、缶ジュースを飲みながら一休みさせる。

しばらくたわいも無い話が続く。
「絶対、矢沢だろ?」
「尾崎だっての」
なかなか意見が合わない。彼は”矢沢永吉”党、俺は”尾崎豊”党だった。
お互いの意見を力説し、お互いの意見を全く聞かない。

「大江ぇ・・・おまえも頑固なやっちゃ」
「その言葉、ノシつけて返しちゃるわ」
「ま、いいけどさ。さてと・・・ここじゃまずいんだわ」
「何がよ?」
「ちょっと地下室。付き合いなって」
そう言って碇が立ち上がった。

碇の言うがまま、彼の後を追う。
そこは正確には地下室に通じる通路で、普段誰も来ないところらしい。
少し埃をかぶった置きっ放しの机の上に座る。

「いる?」
「・・・俺吸ったこと無いんだわ」
碇の手にはセブンスターの箱。
今まで特別吸う機会が無かったから吸わなかっただけで、
タバコに嫌悪感を抱いているわけではない。
親父は家の中のどこでもタバコを吸うわけだし。

セブンスターの箱を手に取り、一本取り出す。
碇がジッポに火をつける。
「いきなり吸ったら目が回っから、吹かすだけにしとけよ」

初めてタバコを吸った。
「ゲホッ」
俺はむせ返し涙目だ。
「ほれみろ。吹かすだけだって。金魚金魚」

碇がニヤニヤしている。
「そのうち慣れる」

そして碇が少し真面目な顔になった。
「なぁ、聞きづらいんだけど聞いてもいいか?」
「なに?」
「ジャイ子のこと」
「お前も知ってるの?」
「ん~なんっつか、お前ひどい奴だってクラス中に言って回ってるぜ?」

やっぱりそうか。。
俺と同じ中学出身の連中や碇は何も変わらなかったが、最近クラスの連中の態度が明らかに変わった
特にジャイ子を中心とした女子の最大派閥と、そいつらとつるんでいる男子連中の態度が明らかに違う。
明らかに敵視した態度・行動をとられている。

「何があったん?」
俺は姉貴に対する思いを除いて、1週間前にあったことを話した。

「あ~なるほどね~。ジャイ子の話しと違うんだけど、まぁそういうことか」
「俺のせいだなぁ」
「うん、ジャイ子もお前も悪い。女の子振るなら優しく振ってやれ」
「難しいな、それ」
「女性経験の無いやつには難しいな」
「・・・・お前はどうなのよ?お前の性格ならモテたんじゃねぇの?」
「モテたっつうか、告白は何度もあるけどさぁ、付き合ったらすぐ振られるんだわ」
「何で?」
「思った人と違うとか言われたわ。お友達がいいとかって。だ~っ女の子のおっぱい揉みてぇ~~っ」
「お前、声でかい。恥ずかしいから俺のいないとこで叫べ」
「いいや。俺の魂の叫び。お前も叫べ」
「勘弁しろよ・・・・」

碇と話をしているうちに少し気が晴れた気がした。

ただ碇に本当の事を話したからといって、俺に対するクラスの雰囲気が変わるわけじゃない。
碇はよくパチンコの新装とかで学校をサボるし、クラスで一緒にすごせる級友は少ない。
そんな学校生活を両親には気づかれたくない。
ましてや姉貴に心配をかけるわけには行かない。知られたら姉貴は俺のために泣く事だろう。
姉貴を泣かせたくない。
無理をして学校は楽しいと見せかけていた。

気が重い毎日が続いた。

それでも土砂降りが続くことは無い。少しずつ天気は変わっていく。
ゆっくりと歯車が回りだし、歯車の数が増えていき、やがてそれぞれがかみ合って回り始める。

一つ目の歯車は碇だった。
5月、最後の土曜日の夜9時、碇から電話があった。
「お前、今から出られるか?」
「今から?俺んちは門限とか無いけどさ、何?いきなり」
「いいから。どっか待ち合わせしたいんだけどさ、お前んちの近くでいいから」
「あ~・・・。俺んちの坂を下りたところに公園あるけど知ってるか?」
「わかる。ブランコとジャングルジムしかない公園だよな?」
「そう。今から来るのか?」
「うん。10時くらいに来られる?」

「わかった」

少し不思議な感覚がする。なぜ碇は俺んちの近くを指定したんだろう?
中間地点を選べばいいのに。
よくわけがわからないまま9時半に家を出た。

あたりは真っ暗な中、公園の真ん中に一つだけ照明が燈っている。
公園脇のベンチに座る。
と同時に少し後悔してきた。
数ヶ月前、ここに姉貴ときた。そのときの会話を思い出し、少し憂鬱になってきた。
『もしお嫁さんの手を離したら、私許さない』
姉貴の言葉がリフレインしていく。

《他の場所を指定すればよかった》
そう思い始めたころ、原付バイクが公園に入ってきた。
スクーターではない。50ccのミッション車だろう。
それが目の前で止り、ライダーがフルフェイスのヘルメットを脱いだ。
碇だった。

「よっ」
「お前・・・それお前の?」
「おう。RG50γっていうんだ」

しばらく碇がバイクの話をしてくる。
奴の兄貴が中免を取って400ccの単車を買ったから、碇にこれが回ってきたらしい。

「大江、おまえ乗ったことある?」
「いや、無いけど」
「じゃ、乗ってみ」
「え・・・いいのか?」
「いいよ。こけたら弁償な」

軽口を叩きながら、操作の説明を碇がしていく。
ギアは6速。ニュートラルから1回踏み込み1速。軽くギアをあげればニュートラル。
強くあげれば2速、そこから6速までギアがある。
ギアを1速に入れ、エンジンの回転数を一定に保ちながらクラッチを繋ぐ。

エンジンの唸りとともにゆっくりとγが前に進む。
と、すぐにエンスト。

「下手くそ~」
「お前は何で乗れるんだよ」
「ずっと練習したし」
「俺は初めてだっての」
「ま、いいじゃん。とりあえず後ろ乗ってみ」

碇が促してくる。
狭いシングルシートに二人の体を押し込む。
碇がヘルメットをかぶって、俺はノーヘル。

ゆっくりと加速し、公園を出る。
公道に出ると、一気に加速。
タンデムステップの無い原付は足のやり場に困るし、体を固定する術がない。
碇にしがみつき、ぐらつく体を押さえる。

猛烈な風が顔を殴りつけた。今まで経験のない加速感。
目が開けられない。

碇の肩越しにスピードメーターを見た。
100km近い速度で走っている。
リミッターを解除したとか言っていた。
親父の車で100kmとは全く違う、異次元の100km。
コーナーのたびに激しくバンクするγ。

生唾を飲み込むだけで声が出ない。

「碇ぃっ、お前飛ばしすぎ!!止めろぉ!!」
ようやく声が出た。

碇が急ブレーキをかけた。

『ゴンッ』
碇のヘルメットに頭を打ち付ける。

「お前・・・俺を殺す気か。どんだけ飛ばすんだよっ」
「ビビった?チキン野郎」
「まったく・・・」

γから降りようとして膝が笑っている事に気付いた。
ガクつく膝を押さえながら、ようやく地に足がつく。

「おまえ、膝が笑ってるぜ」
「お前が飛ばすからだろーが」
「弱虫ぃ~」
「うるせぃ」
碇にいいように言われっぱなしだ。

でも・・・。
俺の知らない世界。
自転車とは違う、車とも違う、異次元の世界。
碇は俺の知らない世界への案内人だった。

自販機で缶コーヒーを買い、碇に放り投げる。
「おごってやるよ」
「ありがとな、チキン」
「やめろって」

しばし無言でお互い一服。

「じゃ、送る。来週の土曜日は暇か?」
「予定無いわ」
「じゃ、また乗ろうぜ。またあの公園に来るわ」

碇に送ってもらい帰宅した。
その日の夜は興奮して寝られなかった。
目を瞑ると風を受けた感覚が蘇ってくるから。
そして次の日、買えるだけのバイク雑誌を買い込んだ。
毎週土曜日の夜は碇とγに乗っていた。
碇に経験させてもらった感覚を自分もモノにしたい想いが募っていく。

次の歯車のきっかけは先輩だった。
俺は小学校から中学まで競泳をやっていた。
意外とそういう生徒は多く、小中学校は違っても顔見知りという人は少なからずいた。
その中の一人、山本先輩に声をかけられた。

「大江、久しぶり」
「山本さん、久しぶりですね」
「そうだなぁ。2年ぶりくらいか?」
「それくらいたちますね」
「お前、まだ泳いでるのか?」
「中3の直前で辞めました」
「そうか。平泳ぎだけはお前のほうが早かったんだよなぁ」
競泳を一緒にやっていた頃の昔話が続いていく。

「ところで大江、お前部活やるのか?」
「いやぁ・・なんかめんどくさくって。特に何も考えてませんよ」
「じゃ生徒会入れ」
「そういえば山本さん、生徒会長でしたっけ」
「『でしたっけ』じゃねぇよ。入学式で挨拶しただろうが。ちゃんと聞いとけよ!!」
「あ~・・そういえば挨拶してましたね。ちゃんと山本さんだって思いましたよ」
「お前は全く・・。決めた。ついて来い」
「いや、ちょっと待っ・・」

山本先輩が強引に俺の肩をつかみ、俺は連行される。
そのまま生徒会室へ。

「そろってるか?」
山本先輩が生徒会室の扉を開けて一声言うと、執行部全員の目が俺に向く。
「書記がまだ決まってなかったよな。こいつ書記やるから」
「え?俺やるって一言もいっ」
「や・る・よ・な」
「・・・・はい」
結局そのまま生徒会役員となった。
執行部は2年生ばかりで俺が唯一の1年生。そして書記を任命された。

2年生のメンバーは多彩な人間ばかりだった。
男女比が半々。
学校を締めている有力運動部である柔道部の黒帯連中や、
県大会上位常連の吹奏楽部のメンバー、同人作家活動をしている人までいた。
生徒会では”千里ちゃん”と呼ばれ、先輩たちに親しくして貰っていた。

クラスの中では日陰者の俺でも放課後は生徒会で充実した活動が出来る。
かろうじて学校生活のバランスが保たれた。

平日の授業時間は殆ど碇とすごし、木金土曜日はバイトをして学校生活は過ぎていく。
バイトで入る給料はたかが知れていた。
早く原付が欲しかったけども、誕生日が来なければ免許すら取れない。
自分の原付を手に入れることの現実感が薄く、無駄使いばかりしていた。

そして6月の初め、小さな歯車が増えた。

直前に控えた文化祭の準備で混乱している生徒会室を、柔道部の部長・斉藤さんが訪ねてきた。
高校の部活は3年の夏休み明けに部長が交代する。
学校を締めている柔道部部長は当然3年生で、いかつい。

「山本ぉ、お前夏休みずっと暇な奴知らないか?」
「斉藤さん、いきなり何言ってるんすか。夏休み期間ずっとですよね。なかなかいないっすよ、そんな奴」
「だから探してるんだろうが。橋本、お前は知らねぇか?」
体育委員長の橋本さんは斉藤部長の直結の後輩だ。
「斉藤さん、俺たち練習と試合があるじゃないっすか」
そういった橋本さんと目が合った。
「千里ちゃん、お前はどうなのよ?」

夏休みはこれといって用事も無い。退屈な休みを過ごすことはほぼ確実だった。

「え・・と、別にこれといったのは無いんですけど・・。何かあるんですか?」
「お前は・・1年生の奴か。バイトだよ。小学校のプール監視。モテモテだぜ?」
斉藤さんがニヤニヤしながら俺の顔を見る。
小学校のプール監視・・・。
確かに小学校のプール開放で泳ぎに行ったときは必ず監視員が二人いた。
あのことか・・・。

「やりますよ、俺。水泳やってたし」
「ほんとかっ。よし、あともう一人はお前が探せ。○○小学校のプールな」
「わかりました。1人心当たりがあるんであたってみます」
あと1人・・碇を誘ってみよう。あいつも夏休みの予定は無いって言ってたし。

「決まったら柔道場に来てくれ。詳しい話はそれからする」
そう言って斉藤さんは生徒会室を出て行った。

斉藤さんは1年生の間でカリスマ的な存在だった。そして恐怖の対象でもある柔道部の部長。
でも、話してみると意外と話しやすい。
とにかく家に帰ったら碇に電話してみよう。

文化祭の準備を必死に片付け、自転車で急ぎ帰宅した。
碇に電話すると、案の定夏休みは暇らしい。
バイトの相棒がこれで出来た。
明日、柔道部に行って斉藤さんに話しをすることにし、眠りについた。

翌日の放課後、柔道場を訪ねた。
畳のにおいとむっとする汗の臭い。男くさい場所だ。

ここでクラスの男子と目が合った。
ジャイ子といつもツルんでいる奴だ。そういえばあいつも柔道部だっけ。
睨みつける様な視線を無視して、斉藤さんを探す。

いた。
乱取りの最中らしい。
入り口のドアの前でしばしそれが終わるのを待つ。
柔道着の連中のなか、1人制服でいると目立つからか、すぐに斉藤さんが俺を見つけた。

「おう、千里ちゃんか。相方は決まったか?」
「漫才師じゃ無いっすよ。でも決まりました」
「そうか、まぁこっちに来い」
そう言い、俺は柔道場の片隅にある打ち合わせ机に招かれた。

プール監視のバイトの詳細を聞いた。
去年は斉藤さんがやっていた事、バイト代は12万円くらいになること、夏休み前に講習があること等々。
親しげに話をする俺と斉藤さんをクラスの男子がポカンと見ている。
そりゃそうだ。
絶対的な先輩と話す、クラスの日陰者。相対的な組み合わせだ。
あらかた話を聞いて柔道場を後にした。
年が明けて免許を取れば、自分の原付が買えるかも知れない。

何もしなければ何も変わらない。
でも自身が動けば少しずつ変わっていくこと、変わっていけることを実感し始めた。

春休みと同様にバイト三昧で夏休みを過ごせば、無駄金を使うこともない。
退屈なあまり、余計なことで悩まずに済む。

だから夏休みは一瞬で過ぎた。

夏休みが終わり、手にした金は20万円弱。
誕生日が来るまでのバイト代と合わせれば、原付とヘルメット・グローブが買える。ブーツだって買えるかも知れない。
あとは、年が明けて免許を手にするだけだ。

そして・・・
歯車が廻り始めるのは俺だけじゃない。
俺の周りでも廻り始める。

9月の終わり、バイトから帰り夕食をとった俺は、ベッドでバイク雑誌を眺めていた。
いろいろな単車がある。中型免許は学校にばれるから、高校では原付しか乗れない。
まだ原付すら手にしていない俺だけど、いつか乗るであろう単車を探す。
限定解除は中型を乗りこなせるようになってからだ。ベストチョイスは4st400ccか2st250cc。

400ccだったら・・。
GPZ400Rは600ccベースで大柄だし、CBR400Rのデザインはインパクトに欠ける。
GSX400インパルスはハンス=ムートのデザインがいまいち、FZR400はシートがきつい・・・
250ccだたら・・。
NS250、TZR250、RG250γ、KR-250
でも2stはオイル喰うし燃費悪いし・・・それにピーキーで乗りづらい。

童貞が見たことのない女体を想像するのと同様、乗ったことも無いくせにインプレッションをする。

妄想が膨らみきったところで、ドアがノックされた。

「だれ?」
「千里クン、私。入ってもいい?」
「いいよ」

姉貴が俺の部屋に入ってくるのは何ヶ月ぶりだろう。
3月のあの日、姉貴と一緒に寝たのが最後だった。
あれから・・・。
顔を合わせば普通に話をしていた。避けていたわけじゃない。
でも・・お互いの部屋に行き来する事はなかった。
姉貴に対する気持ちは少しも変わっていない。
ただ・・気持ちの持って行き場が無くて、この気持ちから逃げていた。

「この部屋に入るの、久しぶりだよ?」
姉貴が部屋を見渡す。
前と変わったといえば・・バイク雑誌が増えた。

「バイク乗りたいんだ。だからバイトしてるの?」
「うん・・。それもある」
少し口ごもる。姉貴に対する気持ちから逃げるために生徒会とバイトをしているのも事実だから。

「そっかぁ。自分で買おうと思ってるんだ。えらい」
「親父に買ってくれって言っても買ってくれるわけ無いじゃん。ウチ貧乏だし」
「貧乏はお父さんとお母さんに失礼だよ。でもお金持ちだとしてもお父さんは絶対に買ってくれないよね?」
「だろ、だから金ためてる。多分、年が明けて16になったら原付買うよ」
「そっかぁ。千里クン、頑張ってるんだ。ちょっと大人になったかな?」
「うるせ。で、なにかあったの?ここに来るの久しぶりだし」
そう、気になっていた。お互いの部屋に行き来することを避けていたのに、
姉貴がわざわざ来たということは何かある。

「あのね、私・・就職決まったの」
「ほんとに?すごいじゃん。なんて会社?」
「○○販売って言う会社」

「知ってる。大手じゃん」
「そうだよ。クラスで一番最初に決まったんだよ?」
「おめでとう。頑張ってたもんな、姉ちゃん」
「うん、ありがと。じゃお風呂空いたから入ってきなよ」
「わかった」
「お休み」
そう言って姉貴は部屋を出て行った。

姉貴は確実に大人になっていく。
就職とか仕事とか今の俺には現実感が全く無い。
俺がまだ手に入れてもいない単車にうつつを抜かしている間に、
姉貴は”オトナ”への階段を登っていく。

ため息が出てくる。
姉貴と俺の差に愕然とした夜だった。
でも・・現実を直視してまっすぐに進んでいく姉貴を見つつ、膨らみつつある俺の夢に戸惑っていたのも事実。
原付、単車に乗れば何かが変わると信じていた。

単車に乗れば姉貴に対する想いを忘れることが出来るはず。
そして単車で何かをしたい。
何が出来るか全くわかってはいなかったけど、すがる気持ちで単車への憧れを抱いていた。

11月、生徒会役員選挙があった。
俺は会長に推す先輩の声をけって、副会長に立候補した。会長に立候補しても、間違いなく同級生は俺に票を入れないだろうから。
結果、俺は無事当選し、2期目の生徒会役員となった。
清美副委員長を除いてすべて同級生で埋まった。
空いているポストは来年の1年生を入れることにする。
たぶん、これが俺の人生の一番大きな歯車。
来年、入ってきた新1年生が俺の妻になる人だった。
俺はそんなことを知る由もないわけだけど・・・。

そうしてその年は過ぎていった。
昭和63年1月。
家族は俺を残してオフクロの実家に帰省した。
俺は新聞配達のバイトがあるから家にいた。
バイトから帰って朝食をとり、夕方まで一眠り。
そして夕刊を配達しチラシの折込。フルコースだった。
両親には言っていないけどこれをこなせば、もう原付は買える。

後は免許だ。
試験は平日しかない。学校をサボるか平日が休みになる日に行くしかない。
ただ生徒会に一人、免許を取りに行きたいやつがいた。
彼も早生まれだけど、俺より誕生日が遅い。
特段誰に怪しまれることもなく、免許を取ったのは2月だった。

後は・・原付を買うだけだ。
碇行きつけの単車屋に行ったのは2月の中盤ころ。
碇と同じミッションにするかスクーターにするか・・。
店に在庫のある原付はRZ50かJOG。
注文して納車まで待てない。この2台を乗り比べた。
RZ50は碇と同じミッション。確かにミッションを操る楽しみは大きい。
でもそれ以上にJOGが面白かった。
アクセルを乱暴に開けると簡単にフロントを持ち上げウイリー大会。
繊細なアクセルワークが必要なJOGを選んだ。

後は・・登録だけだ。これは2日あれば終わるらしい。
現金で支払いをした後、2日後に店頭で納車の約束をして店を後にした。
初めて買う、大きな買い物。自転車とは違う、風を切る感覚を自分の手に出来る。

背中に翼が生え、どこまでも行ける希望。
期待で胸がつぶれそうだった。

でも・・・。
大きな障害がひとつあった。
親父だ。
あらかじめ親父に原付買うことの相談を持ちかければ反対するに決まっている。
だから姉貴にもオフクロにも言わず買った原付。
どうせ相談して反対され乗られないなら、原付を買って怒られた方がいい。
納車の日に親父に言うことにした。

納車の日は生徒会もバイトも入れなかった。
帰宅後、服を着替え単車屋に急ぐ。

あった。あれだ。
濃紺のJOG。そしてガンメタリック一色のSHOUEIのヘルメット、NANKAIのグローブ。
これらがすべて俺のものだ。
自分自身の稼ぎで買った。誰にも文句を言われる筋合いはない。
ただ・・親父がなんと言うか・・。
碇に俺自身の慣らし走行に付き合ってもらい、自宅に帰ったのは8時頃だった。

ヘルメットを小脇に抱え、リビングに入る。
オフクロも姉貴もびっくりしていた。
そりゃそうだ。誰にも原付を買うことなんか言ってないのだから。
「千里クン、もう買ったの」
「うん。原付だけど」
「そっかぁ・・・」
姉貴もオフクロも顔を見合わせ、不安そうにしている。
親父のことを考えているのは間違いない。

「父ちゃんには俺から言うから」
もう覚悟は出来ている。殴られようが蹴飛ばされようが俺の手で買った。
親父の対決を控え、リビングで親父が帰ってくるのを待つ。
いつも親父は9時頃に帰ってくる。あと30分・・。
判決を言い渡されるような気分。
姉貴とオフクロもリビングで親父が帰ってくるのを待っている。

そしていつもどおりの時間、親父は帰ってきた。
リビングに入ってきたところを呼び止めて、免許を見せた。
そして原付を買ったことも伝えた。

《っ!!!!!》
気がつくと俺は部屋の反対まで吹っ飛んでいた。
親父に力いっぱい殴られた。
口の中に血の味がする。頬が熱い。

「お父さん、ちゃんと聞いてあげてよっ」
姉貴が叫ぶ。大声をあげる姉貴を始めて見た。
「千里クン、頑張ったんだよ、全部自分で買ったんだよ」

姉貴を無視して親父は立ち上がった俺の胸倉をつかもうとする。
そこへ姉貴が割って入った。
「千里クン、自分の部屋へ帰って。お父さん、何で話を聞いてあげないのっ。叩けば済む話なのっ?」
姉貴が叫ぶ。オフクロはおろおろするだけだ。

俺は黙って自室へ戻った。
頬が焼ける様に熱く痛い。

ベッドに軋む体を放り投げる。

こうなることはわかっていた。覚悟もしていた。
《姉ちゃんに迷惑かけたな》
階下では姉貴と親父が言い争いをしている。
《姉ちゃんも大声出すんだ》
言い争う声を聞きたくなくて、ラジオのスイッチを入れた。
力いっぱい殴られた割には冷静だった。

本棚に目が行く。

単車に興味を持つようになって、いろいろ買った。

”ペリカンロード”
憲一の乗るMBX50、MVX250F
かな子の乗るBMWR90S
仲間の大切さを知った。

”バリバリ伝説”
グンの乗るCB750(F)、NSR500
秀吉の乗るGSX750刀
風のように去った秀吉との夢を追うグン。夢の大切さを知った。

”左のオクロック!!”
由宇の乗るSEROW225
吾一の乗るRG250γ?型
自分の手でやりこなしていく気持ちの大切さを知った。

俺のバイブルだった。
少しでも彼らに近づきたかったんだけど・・・。

痛みに慣れてきて、いつの間にか眠っていたらしい。
頬に冷たい感触がして目が覚めた。
姉貴が氷をビニール袋に入れて持っている。
俺のことを心配して持ってきたらしい。

「千里クン、大丈夫?」
「・・うん。殴られるのは覚悟のうちだったから・・」
「頬、腫れてる。痛む?薬持ってくる?」
「もう大丈夫。氷で冷やしとけば大丈夫だよ・・」

しゃべると口の中が痛む。口の中もあちこち切っているみたいだ。

「お父さん、いきなりあんな事しなくてもいいのにね」
姉貴の一言で気づいた。俺のせいで姉貴と親父がケンカになったんだ。

「姉ちゃん、ごめん。俺のせいで・・」
「私は大丈夫だよ。悪いのはお父さんだもん」

《たぶん、悪いのは俺だ。黙って原付買ったから》
そういいかけてやめる。言えば反対されるから黙って買ったんだ。

「お父さん、許してくれると思うよ。だって自分が高校の頃の武勇伝いっぱい話してるよね?
それを言ったらお父さん、言い返せないみたい」
「そっか・・。姉ちゃん、策士だな」
「え?う~ん、そうかな?」
「ありがとう。助かったよ」
「どういたしまて。お風呂空いてるけどどうする?」
「疲れた。寝る」
「ん、わかった。おやすみ」
そういって、姉貴は部屋の電気を消し、出て行った。
俺はラジオのスイッチを切り、眠りについた。

翌朝は親父と顔を合わさなかった。たまたまなのか親父が狙っていたのかわからないけど。
そして夜、腰をすえて親父と話をした。
結果、任意保険の分・ファミリーバイク特約の金額だけ俺が払い、原付に乗ることは認めてもらった。
そうしてJOGは俺のものになった。

すべてが順調に廻る歯車もいきなり外れることもある。
それはいきなりやってきた。

姉貴の高校卒業を間近に控えた日の夕方、姉貴が部屋にやってきた。
「千里クン、今いい?」
「うん。雑誌読んでるだけだし」
「えっと・・私○○販売に就職すること知ってるよね?」
「前聞いたよ。覚えてる」
「配属先が決まったの」

○○販売は隣県含めて広範囲にある。場所によっては自宅から通えない。
《まさか》

「隣の県の販売店に配属が決まったの」
「それって・・家を出るって事?」
「・・・・うん。一人暮らしを4月からするよ」
言葉が見つからない。
姉貴は卒業してもこの家にいると思い込んでいた。
何も言えずに黙り込んでしまう。
「千里クン、笑って送ってくれるよね?」
「ぁ・・・・うん」
そう答えるのが精一杯だった。
姉貴の顔を見ることが出来ない。
「千里クンも頑張ってね」
そう言って姉貴は部屋を出て行った。

《頑張るって何を?》
がけっぷちから突き落とされた気分だった。
姉貴が高校卒業とともに隣県で一人暮らしを始める事を知って、
ますます姉貴に対する恋慕が強くなっていく。

姉貴が家を出るのが決まったのは卒業式1週間前だ。
家族の前では平静を装うことに疲れた俺は、自室に引きこもりがちになった。

《姉ちゃん》
ベッドにうつぶせ、思わずつぶやく。姉貴の事を考えないようにしようとしていたのに。

高校の合格発表の日、真っ赤に目を腫らしていた姉貴。
親父に殴られた時、身を呈して庇ってくれた姉貴。
そして・・・1年前、俺の腕に抱かれた姉貴。

毎日家に姉貴はいた。会いたいときはいつでも会えた。
その姉貴があと2週間でここからいなくなってしまう・・・・。
眠れないまま、その日は夜が明けた。

卒業式まであと1週間、俺はどうしたらいいのかわからなかった。
姉貴に接する方法がわからなくて、ほとんど姉貴と口を聞くことが出来ないまま時間が過ぎていく。

クラスでは碇が、生徒会では役員たちが塞ぎこんでいる俺を心配してくれている。
皆、親身に相談に乗ろうとしてくれた。
でも・・・・・出来ない。こんなこと、誰にも相談できない。

誰にも打ち明けることが出来ず、答えの出ない悩みを抱えたまま卒業式の前日を迎えた。

俺の高校も卒業式を翌日に控えている。当然、生徒会は卒業生を送るために卒業式の準備に余念が無い。
細かい雑務を終えて帰路についたのは21時を過ぎていた。

自転車で家路につく。
真っ暗な静寂の中、国道沿いの歩道をひたすら走った。
必死に走る俺をトラックの群れが追い抜いていく。

《くそったれがっ》
別に追い抜いていくトラックが悪いわけじゃない。
でも毒ずかずにはいられなかった。

姉貴に早く会いたい。でも姉貴の顔を見るのが辛い。
もう頭の中がぐしゃぐしゃだった。
けれども帰りたくない家についた。

親父はもう帰宅していた。
リビングのソファに座り、ビール片手にニュースを見ている。
「ただいま」
ひとこと言って、食卓を見た。
1人分だけ食事の準備がしてある。
オフクロがいないところを見ると風呂にでも入っているのだろう。
・・・・姉貴は?いない。たぶん自室だ。

足音を忍ばし、自室に向かう。
姉貴には帰宅を知られたくない。
なぜかわからないけどそう思った。

明日は卒業式。出席するのは当事者である3年生と2年生のみ。
団塊の世代Jrのこの時代、1年生が出席できるわけもない。
だから俺の明日の予定は午前中休みだ。
けれども昼から卒業式の片づけがある。
つまり姉貴の卒業式に行くことも出来ない。

《出かけよう》
なんとなくそう思った。
ブレザーの制服を脱ぎ、ライダーズジャケットを羽織った俺はヘルメットを手にし、また足音を忍ばしリビングへ。
そしてニュースを見ている親父を尻目に1人遅い夕食をとった。

親父に出かけてくることを伝え、ガレージに向かう。
最近の親父は俺のやることに口を出さなくなった。言っても無駄だとでも思っているんだろう。

ガレージの隅に停めてあるJOGのカバーをはずす。
燃料は?満タン近い。オイルは?まだありそうだ。
《よし》
キーを廻しセルボタンを押す。
乾いたセルの音の後に続いて湿った排気音が始まった。

別にどこに行くあてもある訳じゃなく、ただ走りたかった。
ただアクセルを開けばどこにでも行くことが出来ると感じた想いは無く、
ここじゃないどこかに行きたい。そう思っていた。

自宅前の暗い坂道を下り国道に出ると、走っているのは大型トラックばかりだ。

《奴らを追い抜いてやる》
交差点の信号待ちに思った。

でも・・・勝てるはずが無い。
スタートで追い抜いても100mも走ればあっという間に追いつかれてしまう。
後はクラクションの嵐。やり場のない思いがさらに加速する。

30分ほど走ったところで諦めがついた。
コンビニに立ち寄って缶コーヒーでも飲もう、と思ったところへパトカーがいる。
職質なんか受けた日には目も当てられない。コンビニを素通りして裏道に廻る。

《帰るか》
夜の国道をまたクラクション鳴らされながらこれ以上走る気力はとっくに失せていた。
そのまま裏道を走り自宅へついた。

もうカバーをかける気力も無い。
時間にして1時間走っただけなのにひどく疲れた。
《寝よう》

寝静まった家に入り、自室のベッドへライダーズジャケットを放り投げた。
そして体がひどく汗臭いことに気づいた。
重たい体を引きずり、シャワーを浴びる。
投げやりな気分を抱えたまま、ベッドについた。

《もう、どうでもいいや・・・》
無理にでも寝てしまえば考えなくてもすむ。
明日なんて来なきゃいい。
後ろ向きな考えばかり頭に浮かぶ。

逡巡から開放され、まどろみ始めたときドアがノック音。

「入っていい?」
「・・・いいよ」

姉貴が恐る恐る部屋に入ってきた。
あまり明るい表情ではない。

「ねぇ千里クン、お話しない?」
「・・・・うん」

「ここ、座ってもいい?」
姉貴は俺の返事を待たずベッドに腰掛けてきた。
俺は潜った布団から出ることが出来ない。

「・・最近、千里クンとお話していないから・・・」
「そう・・だね・・」
「怒ってる?」
「そんなことはないよ」
「でもずっと私と口を聞いてくれないよ・・。私の事を避けてるみたいだし・・」
「・・・最近忙しかったから・・。生徒会があったし」
「でも・・・千里クン、なんかおかしいよ。私のせい?」
「・・・ん・・」
生返事をし、俺もベッドに座った。
「今日も千里クン、いつの間にかJOGに乗ってどっか行っちゃうし・・」
「なんか走りたかったんだよ」
「そっか・・・」

重い沈黙が続く。
何を話していいか分からない。姉貴は多分、ここ最近の俺の態度を心配して来たんだろうと思う。
姉貴の顔を見られたのはうれしいけども、それ以上に辛い。
敢えて顔を合わせないようにしていたのに・・・・。

「私、卒業だね」
「・・うん」
「私の高校生活は楽しかったよ」
「うん」
「千里クンの高校生活はどう?」
「見ての通りだよ。生徒会に入ったし原付も買った。碇とあちこち走りに行くのは楽しいし。うまくやってるんだと思う」

《そうか・・・》
改めて思う。
原付の免許を取ってJOGを買ったとき、親父に力いっぱい殴られた。
それを親父から庇ってくれたのも姉貴。
姉貴には助けてもらいっぱなしだ。

「・・ありがとう」
俯いたままそう呟くのがやっとだった。
「どうしたの?改まって」
「・・なんとなく。たくさん世話になったよな・・・・」
「本当にどうしたの?」
「だから・・なんとなくだよ」
その次の言葉が続かない。

軽い沈黙が続く。

「ね、千里クン、私に嘘ついた」
「いつ?」
「千里クンの卒業式の時」
「なんかあったけ?」
「第2ボタン」

《ああ、あれか》
思い出した。卒業式の前日に二人の女の子に第2ボタンが欲しいと告白された事だ。
彼女たちは必死だったんだろう。けど・・・俺は完全に忘れていた。

「忘れるなんてかわいそうだなぁ」
「ごめん、あの子たちの事ははっきり覚えてるけど・・もう1年会ってないし・・」
実際、あの後の彼女たちの消息を知らない。

「なんで姉ちゃんが知ってるの?」
「は~・・千里クン、何も知らないんだなぁ。二人とも私の高校に入学したんだよ?知らなかったんだ」
「そうだったんだ。知らなかった」
「かわいそうな二人だなぁ」
「ごめん、本当に知らなかったんだ。あれから連絡取ってないし」
「そっか、こっちからは連絡取りづらいよね。わかる」
「二人は何か言ってた?」
「うん。たくさん言ってた」
そういうと姉貴は少しニヤニヤし始める

《まずい・・》
そんな俺の思いをよそに姉貴は続ける。
「いろいろ言ってたよ~?」
「何を言ってた?」
「まずね、コンドーム。覚えてる?」

即座に思いだした。理科の授業が終わったすぐ後、、
ツレが持ってきたコンドームに水を入れキャッチボールをしていた。
直後、先生に見つかり、放課後、理科準備室で1時間正座をさせられた。
恥ずかしい思い出の極致だ。

姉貴が得意げな顔で続ける。
「まだあるよ?たとえばケンカの・・」
「もう勘弁してよ、本当に。わかったって」
「何の話をしてたか知りたくないの?」
「いいよ、もう」
「ざ~ん~ね~ん。まぁこの辺で勘弁しといてやるかぁw」
姉貴はニヤニヤしっぱなしだ。

「高校に入ってからはどうなの?」
「高校は・・クラスに敵作っちゃったから、そいつらとは上手くやってない。でも生徒会はみんな仲がいいし、そこそこ楽しいと思う」
「碇くんは?」
「あぁ、忘れてた」
「ひどいなぁ」
「あいつさぁ、姉ちゃん紹介しろってうるさいんだよ」
「え?そうなの。2回くらいしか会った事ないんだけど。で、千里クンはなにって答えてるの?」
「お前を紹介するくらいなら、動物園のゴリラを姉ちゃんを紹介するって言ってやった」
「私はゴリラを紹介されても困るよ?」
「ははっそりゃそうだ」
「千里クン、やっと笑ってくれた」
そう言って姉貴がほほ笑む。

《!!!!》
姉貴はすごいと心底思った。
気がつけば会話がはずんでいる。さっきまで悶々としていた気持ちが嘘みたいだ。
姉貴の話術に嵌まっている俺がいた。姉貴は人を和ませる。俺には真似が出来ない。
さっきまでとは違って穏やかな気持ちだ。
でも・・・・

「第2ボタン・・・」
「もういいって」
「そうじゃなくて。私はセーラー服だから第2ボタン無いなって思ったの」
「どういう意味?」
「千里クンが卒業した時は第2ボタン貰ったから。私はなにをあげられるかなって」
「・・・」
「リグは・・・私は多分もう使わないけど、千里クンももう使ってないね?」
「そうだな・・・」
「だよね。声が聞こえないもんね。何かあるかなぁ」

姉貴がいなくなる。
この事実に改めて気付かされた。猛烈な寂寥感が俺を襲う。
でも努めて冷静を装った。

「姉ちゃん・・」
「何にするか決まった?」
「・・・やっぱり・・・いい」
「なんだよ、それ。言いかけた事は言わないと体に悪いよ?」

ジェットコースターのように乱高下する俺の気持ち。

《姉貴からは何も貰えないよ》

「何がいいかなぁ?」

そう言って腕組みをし、左手の人差し指を唇にあてる。
姉貴が考え事をしているときの癖だ。
《かわいい》
心の底からそう思った。

もう我慢できない。
「姉ちゃん、俺欲しいものがある」
そう言って姉貴の前に立った。

「え、なに?びっくりした」
「一つだけある。他はいらない」

そう言って姉貴を抱きしめ、ベッドに押し倒した。

「ちょ、ちょっと待って。千里クン」
「姉ちゃんがいる。JOGも何もかもいらないから」
「ね、お願い。ちょっと待って」
「待てない」
「あのね、私たちきょうだ・・んん・・」
そう言いかけた姉貴の唇を俺の唇で強引にふさぐ。

前と変わらず姉貴の唇は柔らかい。
強引に姉貴の唇を割って舌を入れる。
姉貴の舌を弄る。
粘液と粘膜が入り混じる恍惚感。
しばらくそうしていた。

不意に姉貴が両腕で俺の肩を押す。
唇が離れ目をそらし姉貴が小声で言った。

「・・・ずるいよ・・」
「・・ごめん」
「謝るならしないで・・・ずるい、千里クン」
「ずるいって?・・ごめん・・・よくわからない・・・」
「はぁ~~私、負けちゃったのかなぁ」
「え?負けるって?・・・本当に意味がわからないんだよ」
「女の子に言わせないで・・・」
「・・・・・え?何を?」
「私に言わせたいの?」
「だから・・何を言うの?」
「はぁ~」

姉貴が軽くため息をついた。
そして目をあわす。姉貴の目が少し潤んでいる気がする。

「いいよ・・」
「・・・えっ?じゃぁ」
そう言って姉貴に被さろうとする俺の肩をつかみ、押し返す。
「だめ。ここじゃ」
少し姉貴の口調が強くなる。
「え、姉ちゃんの部屋?」
「そうじゃなくて。もう本当に・・・。下でお父さんとお母さんが寝てるんだよ?家じゃだめだよ」
「・・・どこで?」
「もう・・。がっつかないの。今日はだめ。そして家でもだめ」
そう言ってベッドから立ち上がり、
「ちょっと待ってて」
と言い、自分の部屋に帰っていった。
「ふぅ」
ため息をついてベッドに座りなおす。
正直、姉貴を押し倒した時はどうなっても良かった。
どうせ姉貴は出て行くわけだし・・・・。

でも・・
感動ともうれしさとも言えない感情が湧いてくる。
いや、多分うれしさ・・なんだと思う。
なぜ姉貴は”いいよ”と言ってくれたか良くわからないけど、
それは置いておこう。

今度はノック無しで姉貴が手帳を見ながら部屋に入ってきた。
「ねぇ・・・デートしようか?」
姉貴が手帳から眼を離し、俺を見る。

《デート・・・・》
そういえば・・・姉貴と二人で出掛けた記憶があまりない。
子供のころは夏休みに小学校のプールに行ったり公園に行ったりしていた。
思春期に入ったころからはあまりそう言った記憶がない。
そして春休みも夏休みもバイト三昧で、時間が取れなかった。

「なんか・・・照れるな」
「いいじゃん。二人で出掛ける機会なんてなかったし」
「そうだね。いつ行こうか・・・・」。

明日は土曜日で卒業式だ。明後日は姉貴が友達と遊びに行く約束をしているらしい。
翌週の日曜日は引越の準備があるだろう。
月曜日に姉貴は家を出ていく。

俺はまだ終業式まで時間があるから必然的に授業がある。
学校をさぼるという選択肢は真面目な姉貴の事だから許さないだろう。

「やっぱり学校があるから・・時間が無いよ・・」
せっかくの姉貴の誘いに乗れないのが悔しい。
「土曜日は?」
「その日は昼から生徒会の全体会議があるんだ。開始が1時半からだから・・。
最後の会議だから抜けられないんだ。俺、副会長だし・・」
「じゃぁ・・・終わるのは夕方かな?」
「うん・・多分そうなる。夕方4時くらいには終わると思うんだけど」
「家に帰ってくるのは4時半くらいだね。じゃあ晩御飯一緒に食べて・・その後デートできるよ?」
「でもそれじゃ時間があまりないよね?」
「鈍いなぁ・・・もう。私に言わすかぁ?」
「ずるいだの鈍いだの言われ放題だなぁ、俺。どういう事?」
「だぁかぁらぁ。泊ろうよ、どっかに」

《!!!》
想像もしてなかった。そうか泊りか。確かにそれなら時間を気にしなくても良い。
ただ両親に何と言えばいいんだろう。

「私は由起ちゃんちに泊る事にする。あの子にはいっぱいアリバイ作ってあげたもん。千里クンは誰かいないの?」
「そっか。じゃ碇にでも頼んでみるかな」
「これでデートができるね。楽しみにしてるよ?」

姉貴は満面の笑みだ。良かった、本当に。
自分の欲望に負けて姉貴を押し倒した時、姉貴との別れを覚悟した。
でも・・・良かった。

「じゃ、私寝るね。えっと、この事誰にも言っちゃだめだよ」
「わかってるよ。お休み」
「うん、お休み」
そう言って姉貴は自分の部屋に帰って行った。

俺も明日は卒業式の手伝いだ。昼からとはいえ片付けだから体力を使う。
部屋の電気を消し、布団に潜った。

翌日起きると、姉貴はもう学校に行っていた。オフクロも学校に行く準備をしている。

姉貴は家に帰ると、”高校生”ではない。感慨深いものがあった。

《なにかプレゼントをした方がいいのかな》
考えてみても思いつかない。迷っている間に時間が来てしまった。
仕方なく昼食を詰め込み、JOGに乗って学校に行った。

卒業式は滞りなく終わり、そのあとはグランドで卒業生やその親がたむろしている。
それをしり目に俺は肉体労働だ。必死になって体育館の椅子や来賓用の机を運ぶ。
片付けが終わったのは夕方5時を過ぎていた。

もう姉貴は帰っているだろう。早く帰って姉貴に欲しいもの聞かなければ・・・。
買い物ができるのは明日しかない。自宅までJOGを飛ばす。

自宅につくと姉貴はもう帰っていた。リビングでオフクロと話をしている。
「卒業おめでとう」
「ありがとう。もう高校生じゃなくなったね~」
「うん。大人だ。その制服着るのも最後だね」
「そうだね。3年も着てるとずいぶんくたびれちゃった」
「そうだ、写真を撮ろう。最後なんだから」
そう言って親父の書庫へカメラを取りに行く。
「じゃ、どこで撮る?」
「そうだなぁ・・・私の部屋で撮ってもらっていい?」
「わかった」

姉貴の部屋はいつもきれいだ。荷作りも進んでいるらしい。部屋の隅に段ボールが重ねてある。

「じゃ、その椅子に座る?もう座ることも無いだろうし」
そういって勉強机の椅子を指さす。
「うん。そのつもりだった」

そういって写真撮影が始まる。
フィルムはリバーサルの36枚撮りだ。露出を失敗すると全部が無駄になる。
広い部屋ではないから望遠レンズは使えないし、標準ズームが精いっぱいだ。
ストロボを使った方がいいだろう。でも直接光を当てると影ができる。バウンスを選択する。
1枚1枚を慎重に絞りを選択し、シャッタースピードを決める。
姉貴をきれいに撮る事に必死だった。

《きれいだ》
本気で思う。夢中でシャッターを切る。

「もう・・何枚撮るつもりだよ~ストロボで目がチカチカする~」
姉貴の一言で我に返る。
「ごめんごめん。久しぶりにカメラ使ったから・・」
「相変わらずだなぁ。黙ってシャッター切ってたらこっちが緊張しちゃうよ」
「そうだね。少し休憩しようか」
そう言ってカメラを見ると、フィルムの残数があと5枚だ。

とりあえず休憩を入れよう。そして渾身の一枚を撮ろう。
「姉ちゃん、後5枚なんだけど一休みしよっか」
「うん。わたしコーヒー淹れてくる」
そう言って姉貴は部屋を出て行った。

もう6時を過ぎている。さすがにこの時間になると外は暗い。

姉貴のベッドに座って部屋を見渡す。
引越しの準備がほとんど済んでいるこの部屋は、ひどく殺風景な気がする。
山積みにされたダンボール、本の無い本棚。
新居で使う家具はもう姉貴が買っているみたいだから、ベッドや本棚は置いていくつもりなんだろう。
机の上においてあるリグには手製のカバーが掛けてある。もう使う気は無いという意思を感じた。

本当は写真なんかを撮っている場合ではない。
姉貴の欲しいものを聞かなければいけないんだけど・・・。

うまく聞きだすことが出来ない。照れて口に出せない。

迷っている間に姉貴がマグを二つ持って戻ってきた。
「コーヒー切れてるみたいだから紅茶にしたよ?」
「コーヒーよりも紅茶が好きだから、その方が良かったよ」
「良かった」
そう言うと俺の隣に座り、マグを手渡してきた。

「大体片付いたの?」
「うん。あとは服とかかな?これは引越しの前日にやるよ」
「そっか・・・・」

プレゼントに何が欲しいかなかなか聞き出せない。
どうしても照れてしまう。

「写真さ、私ばっかり撮られてるよ?千里クンのは?」
「俺の写真?べつに俺はいいよ」
「あと5枚残ってるんだよね?撮ろうよ」
「姉ちゃん、このカメラ使えないじゃん。だから俺は撮れないよ?」
「う~ん・・・。スイッチや数字がたくさんあって、よくわかんないしなぁ。じゃ、一緒に撮ろ?」
「・・・そうか、そうだね。じゃ三脚取ってくる」

俺の写真を欲しいとは思わないんだけど、姉貴と一緒にとった写真は欲しいと思う。
早速三脚を取ってきてカメラをセットする。

「じゃ俺、姉ちゃんの隣に座るから。カメラのここが赤く光るから、点滅が早くなったら2秒でシャッターが切れるよ」
そう言ってセルフタイマーをセットし姉貴の横に座る。

最初の一枚はそれで終わった。

「あと4枚だよね?」
「そう。撮っていい?」
「うん」

次の写真はシャッターが切れる寸前に姉貴が腕を組んできた。

「勘弁してよ~。今の俺の顔、たぶんめちゃくちゃ変な顔してるよ?」
「いいじゃん。記念だよ?」
「いや、記念だけどドッキリはいいよ。写真はずっと残るんだから」
「え~じゃあ次は最初から腕を組むよ?」
「・・・・もう好きにしてよ」

そう言って次の2枚は姉貴と腕を組んで写真を撮った。

最後は・・・・。
「じゃ最後は普通に撮ろ?」
「ん、わかった」

シャッターを押し姉貴の横に座った。
カメラの赤いLEDがゆっくり点滅を始める。
やがて点滅のスピードが速くなってシャッターが切れる寸前、姉貴が俺の頬に軽く口付けてきた。

「うわっ。今のはびっくりした。ひとこと言ってよ」
「言ったら千里クン、絶対拒否するもん」
「まぁ・・そうかな」

これで渾身の一枚が取れたかどうかは不安だけど・・・。
とにかくフィルム1本を使い終わった。
また姉貴にプレゼントのリクエストを聞きそびれてしまった。

ちょうど階下からオフクロが夕食の準備が済んだと大声を出している。
親父も帰ってきてるみたいだ。夕食のときに姉貴に聞くことにし、カメラを片付けた。

《またタイミング逸した》
そう思ったのは夕食が終わった時だ。
親父から社会人になる姉貴へプレゼントがあった。
それはたいした物じゃないけれど、先を越された気がして、姉貴に聞くタイミングを逸してしまった。

結局その日は姉貴に聞くことが出来ないままだった。
前日寝つくことが出来ず、目が覚めたのは昼前だった。
姉貴は友達の家に行っているし、姉貴の欲しいものを聞くことが出来ていない。
けれども今日中に準備をしなくては時間がない。

《時間が無い》
姉貴に聞くのはもうあきらめる。
だから自分で選ぶとして、選択肢を絞ろう。

身に着けるもの、食べるもの、仕事に使うもの。
食べるものはすぐ無くなってしまうし、仕事に使うものは何がいいか分からない。
結果、身に着けるものがいい。さらに選択肢を考える。
アクセサリー、下着、洋服。
アクセサリーなんてとても買えない。そんな店に入る勇気が無い。下着も同じ。
じゃあ洋服。自分で買える店で売っているもの。女性もののは除外しなければいけない。
さんざん迷った挙げ句、ジーンズを買う事にする。
後はサイズだ。
今の姉貴のジーンズのサイズが分かれば、それと同じサイズのジーンズを買えばいい。
オフクロに頼み、姉貴の部屋からジーンズを取ってきてもらう。さすがに姉貴のタンスを漁るには気が引けたから。

これで股下とウエストが分かった。太っても痩せてもいない姉機だから普通のジーンズを買えばいい。
ジーンズは俺が良く行くジーンズショップで買おう。

ようやくここまで決めて家を出た。

自宅からかなり離れた繁華街にそのジーンズショップがある。
店に入るといつもより客が多い。店員も忙しそうで相談に乗ってもらえそうに無い。

自分で決めるとなると、定番ジーンズにしておけば、はずれは無いと思う。
リーバイスの501が定番ではあるけど・・・・。ボタンよりもファスナーのほうが便利だろう。
505に決定。

目当てのジーンズをレジに持っていくと、裾カットは今日中に出来ないらしい。
仕方が無い。来週の土曜に姉貴と一緒に取りに来よう。

プレゼント用の包装を頼み店を出た。
ついでに昨日のフィルムをラボに出し、ダイレクトプリントも頼んでおいた。

後は・・・碇にアリバイを作ってもらわなければならない。
《奴に何って頼むか・・・》
姉貴と泊まるからなんて言える筈も無い。
架空の女の子をでっち上げて泊まりに行くことにする?
間違いなく根掘り葉掘り聞かれる。

《考えてもしょうがない》
それしか結論は出ない。
あまり早いうちに碇に頼むと間違いなく質問攻めにあうから金曜日に頼もう。

そして何事もなく金曜日を迎えた。

放課後、JOGを飛ばして碇の家へ。
なかなか碇に言い出せず、とりあえずゲームをして過ごす。

《困ったな》
考えてもしょうがない。ここを頑張らなければ俺の明日は無い。
意を決して碇に話そう。

「なぁ碇。頼みがあるんだけどさ」
「なに?頼みって」
咥えタバコのまま碇はコントローラーを持ち、TVから目を離さない。

俺もタバコに火をつけ、気持ちを落ち着かせる。

「早く言えって。言いにくい事か?」
「う~ん・・・。碇は明日暇か?」
「多分。放課後いつもの峠に行く位かな?お前は生徒会の会議だろ?」
「そう。で、碇の夜の予定は?」
「特に無いけど。気が向いたら夜走りするかな。明日の夜になんか用がある?」
「いや、用はないけど・・。頼みがあるんだ」
「だから早く言えって」
「明日の夜、一緒にいる事にしてくれない?」

碇の咥えタバコから灰が落ちた。
そんなことを気にせず、碇はTVから目を離しこっちを向く。

「お前・・・・女か?」
「う・・・ん・・」
「いつ出来たのよ?俺聞いてないよ?隠密行動で女作ったんか?」
「いや・・・だから」
「ほんと、誰?どこで知り合ったの?」

《相手は姉貴で、生まれたときから知り合い》
さすがに言えない。

「すまんっ。本当に勘弁して。言えないんだわ」
「そりゃ無いだろう?」
そう言ってタバコを揉み消した碇が首を羽交い絞めにしてくる。

「チョーク、チョーク」
「話したら放してやる」
「ほんと、言えないんだって」
「話す?」
「ダメ」
「年は」
「・・・年上かな・・」
「マジでっ?どこで?」
「言えないって・・っつうか苦しいって」
ようやく碇が手を解いた。
「お前の姉ちゃんの知り合い?」

《その手があった》
「そう。だから言えないんだわ」
「そうか~。ま、いいよ。お前んちから電話があったらアリバイ作ってやるから。
でもいつか紹介しろよ?」
「わかったよ」
《一生お前には紹介してやらない》

なんとかアリバイつくりは出来た。

後は明日が来るのを待つだけだ。
家に帰り、その日は早く床についた。

土曜日は快晴だった。暑くも無く寒くもなく。
もう皆食卓で朝食を摂っている。
俺もそれに混じり、朝食をとる。

そして・・・。
お袋と親父に今日の夜は碇の家に泊まりに行くと告げる。

許可がでた。

こういう部分は理解のある親に後ろめたさを感じつつ感謝。
姉貴も外泊の話をしているみたいだ。

今日は授業が終わった後、生徒会の全体会議だ。
早く帰宅したいからJOGに乗って学校へ行った。

当然、学校では碇がしつこく絡んでくるが一切答えない。
授業は上の空で、生徒会会議も議事なんて全く頭に無かった。

そして会議終了後、ダッシュで自宅へ。
JOGで学校に来て正解だった。自宅に着いたのは4時過ぎだった。

姉貴の部屋に飛び込む。
「ノックくらいしてよ。びっくりしたよ?」
「今帰った。今日はどういう風にしようか」
「言ってる意味がわからないよ?どうやって出かけるかってことだよね?」
「そうそう。いつものジーンズショップとラボにも寄りたいんだけどいいかな?」
「いいよ。繁華街の近くだよね。じゃあ・・マクドで待ち合わせようか?」
「え?一緒に出ないの?」
「別々のところに出かけるのに一緒に出るのって変じゃないかな?
それに千里クンは碇くんのとこ行くときはJOGで行ってるし」
「そっか。そこまで頭が廻らなかった。そうだね、マクドで待ち合わせよう」
「時間はいつがいい?」
「早いほうがいいよ」
「もう。がっつかないの。私の準備があるから・・。そうだね、5時半くらいはどうかな?」
「わかった。ラボとジーンズショップは先に行ってるから、マクドで5時半」
「うん。じゃあまた後でね」

姉貴はバスで来る気だ。
俺は碇の家に行くことにしているからJOGで行かなければならない。

JOGを飛ばし、ジーンズショップとラボに寄ってパチンコ屋にJOGを停めた。
一晩預かってもらおう。

5分ほど歩いてマクドにつくと、意外と人が多い。
待ち合わせの時間まであと30分はある。
中で待つには人が多くて姉貴が俺を探すのが大変そうだし・・。
マクドの前にあるベンチに座って待つことにしよう。

ベンチに座って一服。
家族の前でははっきり言ってないけども、もう完全な喫煙者になっている。
親父は中学生から喫煙しているらしいから、気づいていても俺には注意できないでいるのだろう。
もう俺の部屋はタバコ臭いし、気づいてない訳がない。
ただし姉貴は別。逐一、俺の喫煙にはひとこと言ってくる。
適当にはぐらかして入るのだけど。

一服しながら人の流れを眺めていた。
やがて背中を叩かれる。
「またタバコ吸ってる。だめだよ?」
「あ、ああ。ごめん」

ポイ捨てをするとさらに姉貴の機嫌が悪くなるだろう。
靴の裏で火を揉み消し、吸殻をタバコの箱に放り込む。

「お待たせ。どうしようか、今から」
「そうだなぁ。おなか減ったね。何か食べよ?」

ここで少し困る。今日の予定を何も考えていない。
プレゼントとアリバイ工作で手一杯だったのとうれしさで、そこまで考えている余裕が無かった。
友達の女の子と遊びに行くときは何も考えず、適当に食事を摂ったりするんだけど。

「なにか食べたいものある?」
「そうだなぁ・・・。千里クンの好きなものでいいよ?」
「え~と・・・・」

ちょうどマクドの反対側に喫茶店がある。
あまり流行っている様子ではないけれども、客は少ないほうが静かでいい。

「あの店に行こうか?」
「いいよ」

その店のドアを開けると・・・。

カントリー風の店内は少し薄暗い間接照明で客があまりいない。
カウンター席に3人くらい、ボックスシートに1組のカップルがいるだけで、
マスターの趣味でやっているような店だ。

「いらっしゃい。空いている席、どこでもいいよ」

無垢の板張りの床は足音が響く。

一番奥のボックスシートに向かい合わせに座る。
直後、マスターが水を持ってきた。

マスター「いらっしゃい。初めてのお客さんかな?
ウチのルールでカップルでいらっしゃったお客さんのリクエストでBGMを流してるんだ。
ちょうど今、あちらのお客さんのリクエストアルバムが2曲くらいで終わるから。
オーダー聞きにくるからそのときにリクエストもどうぞ」

そう言ってマスターがカウンターに戻る。
今の曲は・・・エリック・クラプトンかな?

「何を食べよっか?」
「定食メニューもあるみたいだね。俺は定食ものかな」
「私は・・。ハンバーグ定食がいいかな?」
「じゃ、俺も」

少ししてマスターがオーダーを取りに来た。
「ハンバーグ定食を2つお願いします。それからリクエストは・・・洋楽がいいですよね」
「そうだね。店の雰囲気がこうだから洋楽をリクエストするお客さんが多いね。
邦楽もあるけど。何がいいかな?」

この店で邦楽をリクエストするのは他のお客さんに迷惑を掛ける気がした。
「洋楽でいいです。クイーンのグレイテストヒッツありますか?できればB面で」

マスターが少し意外そうな顔をする。
「へぇ。ありがとう、気を遣わしちゃったかな。」

クラプトンの曲が終わりリクエストアルバムが掛かる。
少し雑音が入るその音は多分CDじゃなくてLPなんだろう。

やがてWeWillLockYouが始まるころ食事が来た。
ボリューム感のあるハンバーグにサラダとコーンスープ。
ライスの量が俺と姉貴で明らかに違う。

「千里クンのご飯、大盛り?頼んだっけ?」
「いいや、頼んでないよ。多分俺が男の子だからかな?」
「あはは、そうかも」

BGMのB面が終わったあとはA面に変わった。

お互いの近況を報告しながら食事が進む。
姉貴は生徒会のことに興味があるらしい。
2年目に会長ではなくて副会長になった理由、男女比等々。

食事が終わるとコーヒーをマスターが持ってきた。
机の上が片付いたところで姉貴が俺の持っている紙袋のことを聞いてきた。
「ジーンズショップ行くって言ってたけど、何を買ったの?
「あ、ああ。え~っと。ジーンズ」
「わかってるよ、ジーンズショップだもん。新しいの買った?」
「うん・・・・。姉ちゃんの買った」
「私の?なんで?」
「・・卒業祝い」
多分、俺の顔は真っ赤になっていたと思う。
恥ずかしさでどんな話をするか、どんな表情をすればいいか分からなかった。

「ほんと?見せてよ」
「ここで?それはちょっと・・・。泊まるとこで見ようよ」
「え~っ。早く見たいのになあ」
「恥ずかしいって、俺。で・・あの・・もう一つ聞いていい?」
「なに?」
「とまるとこって・・・。ホテルだよね?」
「もう~。千里クン、女の子に言わしちゃだめだよ?」
「うん・・・ここの近くにも結構あるけど、川向こうの方がいいよね。この近くだと知り合いに会いそうだし」
「そうだね。私も行った事無いからよく分からないんだ」
「そっか。行けば何とかなるよ、多分」
「そうそう」

ここでラボに行って写真を取ってきた事を思い出した。
「写真の現像すんだよ」
「見よう見よう」

テーブルの上に写真を並べる。
Lサイズで頼んだダイレクトプリント。
殆どが姉貴の写真ばっかりだ。
そして・・・5枚だけ二人のツーショット。

マスターがコーヒーカップを下げ、代わりに緑茶を持ってきてくれた。

「へぇ。お兄さんは写真やってるんだ。リバーサルで撮ったんだよね、この写真」
「はい。普通のネガと発色が全く違いますよね、リバーサル」
「そうだね。でも露出にシビアだから難しいよね。お兄さん詳しいね、カメラは何使ってるの?」
「EOSです」
「そうか、最新機種だね。私はF1使ってるんだよ」
少しだけカメラ談義。

《ヤベッ姉貴のことほったらかしてた》

姉貴は1枚1枚写真を見ている。少し恥ずかしそうだ。

「私も写真を見ていいかな?」
「え?あの素人の写真なんで・・・」

マスターは最後まで俺の話を聞かず、テーブルの上の写真を手に取った。

「彼女の写真ばっかりだね、ふんふん・・」
マスターも一枚一枚写真を手にしていく。

「この写真、私の一番のお気に入りなんですけど、どう思いますか?」
姉貴が口を開いた。そしてマスターに写真を手渡す。

「よく撮れてると思うよ。バウンスも上手くいってるね。でも・・・」
「でも?何ですか?」
ダメだしをされると思い、少し不安になる。どうせ素人写真だ。

「私が見て一番いいと思うのはこれかな?」
そう言って一枚の写真をテーブルにおく。

「あ・・・」

姉貴が俺の頬に口付けしている写真だ。
マスターがニヤニヤして言う。

「二人の表情が一番いいのはこれだよ。二人の関係がよく伝わる写真だね」

《恥ずかしい~》
姉貴の顔も真っ赤だ。

「ご馳走様」
そう言ってマスターは入り口に行った。
外の電気を消しているらしい。もう閉店時間みたいだ。
何も言わないところを見ると、俺たちに気を使ってくれているのだろう。

「行こうか」
「うん」

会計をすまし店を出る。
本当は早くホテルに行きたい。当然なんだけど。
なかなかホテルに行くことを言い出せずに閉店までその店にいた。

外はもう暗い。
繁華街とはいえ飲み屋街ではないから、もう人もまばらになっている。

姉貴とゆっくりと歩く。繁華街を抜けて対岸へ向かう。

なにか話をしたほうがいいのだろうけど、何を話していいのかわからない。
少しうつむき加減で、黙々と歩く。

川にかかる橋の真ん中あたりで姉貴が手を繋いできた。
指を絡めるように手を繋ぐ。

姉貴の顔を見てみる。
肩より少し長いくらいのセミロング。サラサラのストレートヘア。
川面に反射したネオンの明かりが姉貴の顔を照らしている。

「ん?どうかしたの?」
「なんでもない・・・」

綺麗だった。恥ずかしくてとても言えないけど。
言葉を捜すけど見つからない。

橋をわたり終わったところで姉貴が口を開いた。
「”君に会うまでは”だっけ?こんな雰囲気なのかな?」
「そうだね、多分」

また無言に戻る。無理をして会話を続ける必要はないんだろうけど。

そうしているうちにホテル街についた。
5軒くらいホテルが並んでいる。派手なネオンはないけれども一目でそれだとわかる。

「どこにしようか・・・」
「・・千里クンが決めて・・」

どのホテルもそう違いはないと思う。一番落ち着いた雰囲気のホテルにしよう。

「あそこでいいかな?」
「・・うん・・・・」

姉貴の声が小さい。姉貴も恥ずかしいんだろう。

でもホテルに入室するシステムがよくわからない。
クラスや生徒会でそういう話をする連中はいたけど、
俺には現実感がなくて気にしていなかった。

《行けば何とかなる》
少し不安はある。フロントで18歳未満はどうこうと言われても困るんだけど。
でも行かなければ何も始まらない。

意を決してホテルの入り口に入った。

自動ドアを抜けてつい立の横にあるホテルのロビーは無人だった。
小さいころ家族旅行で行ったホテルとは様子が違う。

照明が暗く人気がない。そもそもフロントがない。
かすかにBGMが流れているくらいだ。

普通のホテルだとフロントがある場所の壁にパネルがあり、
その下にボタンが並んでいる。
そこで部屋を選ぶみたいだ。
俯いたまま繋いだ手にすこし力が入る。

「部屋、あそこで選ぶみたい。見てみよう」
姉貴を促しパネルに向かう。

無言で手を繋いでついてくる姉貴。
ここでしっかりしなければいけない。

パネルはバックライトの転倒している物、消灯している部屋がある。
消灯している物は誰かがいるんだろう。

「いろいろあるね・・。どれがいいかな?」
「・・・・千里クンに任せたよ・・・」
姉貴は俯いたままだ。

部屋にはいろいろな種類があった。和風、カラオケ付、ゲーム付等々
その中にジェットバス付があった。
ジェットバスの風呂には入った事がないから興味がある。
702号室だ。

「702号室にするよ」
そう言ってパネル下のボタンを押す。
ロビーの案内表示が点滅し、エレベーターの方向を示している。
無言で姉貴とエレベーターに乗った。

「姉ちゃん・・・」
姉貴を抱きしめた。
今日、ずっと姉貴を抱きしめたい衝動に耐えていた。
違う。1年ずっと耐えていた。
忘れようとしていた、忘れなければならない、叶わない思い。

姉貴がそっと腰に手を廻してきた。
そっと姉貴と唇を重ねる。
どちらからともなく絡みつく舌。

「んっ・・」

その瞬間、エレベータの扉が開いた。

「・・びっくりしちゃった。ふふっ」
小さく姉貴が笑う。

エレベーターから続く廊下の突き当りで702と書いた番号が点滅している。
あの部屋らしい。

「行こ?」

また姉貴と手を繋いでその部屋に向かう。

その部屋のドアを開けると・・・。
廊下より明るい照明が少し眩しい。
入口の玄関らしき場所で靴を脱ぎ、部屋へ入る。

思ったより広い。家族旅行で行ったホテルはベッドとソファーがあるだけで、ひどく狭かった。
ここは・・・明るく広い浴室、広いベッド、3人掛けのソファー。
想像している部屋とは全く違った。

「広いね、この部屋」
「・・うん。」

また姉貴を抱きしめる。
重ねる唇。
そして・・・。

「ぷっ・・あはははは」
姉貴がいきなり笑い始める。

「えっなに?どうしたの?」
「ずっと緊張してたからおかしくって。ごめん、千里クン」
「びっくりしたよ。姉ちゃんが壊れたかと思った」
「ごめーん。ねっ、ずっと歩いて疲れちゃった。座ろ?」
そう言ってソファーに座る姉貴。
俺はのどが渇いた。
冷蔵庫を開けてみると、コインを入れて飲み物を取る様になっているらしい。自動販売機みたいなものだろう。

「ポカリでいい?」
「いいよ。ありがとう」

二人並んでソファーに座る。
「姉ちゃん、あの・・・・すごくきれいだ・・・」
「もう~、見ないでよ」
照れる姉貴が俺の欲情を誘う。

「姉ちゃんっ」
姉貴をソファーの上に押し倒した。

「ちょっちょっ・・ちょっと待って。まだ駄目だよ」
「我慢できないよ」
「お風呂にも入ってないし」
「限界なんだよ」
「大丈夫、私と千里クンは朝までここにいるんだよ?」
「でも・・」
「お風呂が先だよ?」
「・・・・・」
「分かった?」
「・・・・・じゃあ・・」
「なに?」

ソファーに押し倒されたままの姉貴。
ほほ笑む姉貴がいとおしくてたまらない。

「一緒にお風呂入ろう」
「えっ?・・・」
「ちょっと前までは一緒に入ってたじゃん。いいよね?」
「え、いや、え~っと。嫌じゃないんだけど・・・」
「嫌じゃないんだけど?」
「先に入るから、千里クンは私が呼んだら入ってきて。それでいい?」
「・・・わかった」
そう言ってソファに座りなおす。
姉貴もソファに座りなおし、乱れた髪を直している。

姉貴の仕草の一つ一つがいとおしくてたまらない・・・。

「姉ちゃん・・」
「お風呂、入れてくるね?」
そう言って姉貴は浴室に向かった。

俺は・・・手持ち無沙汰だ。
《タバコを吸いたい。》
窓際へ行きカーテンを開ける。
飾りガラスの向こうには雨戸があるらしい。
それらを全部開ける。
窓から見えるのは隣のビルの壁。それも手が届きそうだ。

「何か見える?」
風呂に湯を張り始めたんだろう、姉貴が聞いてきた。

「ん、何も。壁だけ」
「タバコ、吸おうとしてた?」
「う・・ん」
「しょうがないなあ。ずっと我慢してたんだよね。1本だけだよ?」
「ありがと。ずっと我慢してた」

タバコに火をつける。室内に紫煙が入らないようくゆらせる。

姉貴がソファーにちょこんと座った。

「泡風呂にするね?」
「泡風呂?」
「えっとね、お風呂入れるとき、石鹸を入れておくと泡風呂になるみたい。洗面においてあったよ?」
「へぇ~。俺、泡風呂って入ったことないや。姉ちゃんある?」
「ううん。映画とかであるよね?あんな感じかな?」
「脚だけ出してちょっとだけよ~とかやるわけ」
「私そんなことしないもん」
「あははは・は・・は・・・・ん?」

ビルの谷間の下のほうから声がする。

・・・ぁ・・ん・・・ぁっ・・・

《あえぎ声?!》

「どうしたの?」
姉貴が覗き込んでくる。

「・・・声がする」
「何の声?」

俺は答えようがない。
無言でタバコをもみ消し、姉貴と体を入れかわる。

「・・えっ?これって聞こえるの?」
「多分・・・その部屋だけ窓開けてるのかな?他からは聞こえないし・・・」
「すごい・・声」

確かに激しいあえぎ声。AVみたいだ。

「ね、閉めよ?・・聞いてるこっちが恥ずかしいよ・・」
姉貴はそう言ってこっちの窓を閉め、はす向かいの窓を開けた。

「ほら、やっぱり。こっちは外が見えるよ?千里クンも見てみて」
姉貴に促されるまま窓辺へ。こっちの窓はさっきの窓よりも少し広い。
二人並んで外が見渡せる。

「・・・きれいだね」
繁華街のネオンが川面に映し出される。

「部屋の電気消してみようか?」
「うん」

《あれ?》
消すとは言ったものの、スイッチがどこにあるかわからない。
浴室、洗面所、トイレのスイッチはすぐわかった。
普通、壁際にスイッチがあるはずなんだけど・・・。

「あった」
ベッドの枕元にいろいろなパネルスイッチがある。
そのダイヤルを廻すと、部屋の照明が薄暗くなった。
今、灯いているのは壁際の間接照明だけだ。

「ありがとう。見て、すごくきれいだね」
「あの橋を渡ってきたんだよね」
「うん・・・」

橋の真ん中で見た姉貴を思い出した。
川面にはネオンの光がゆっくりとゆれている。
「花火みたい。きれい・・・」

《でも姉ちゃんのほうがきれいだ》

肩を並べてしばらく夜景を見ていた。

「さっきの声・・・すごかったね?」
「・・・うん」

少しの沈黙。

「お風呂・・見てくるね」
そう言って姉貴は浴室へ行った。

「私、先に入るね。呼んだら千里クン、来てもいいよ」
「わかった」

また手持ち無沙汰になった。
この窓から外が見えるということは、外からもこっちが見えるかもしれない。
こっちの窓を閉めて、先に開けた窓を開けなおす。
そして一服。
さっきと同じように部屋に紫煙が入らないようくゆらせる。
もうさっきのあえぎ声は聞こえない。
窓を閉めたのか、終わったんだろう。

すこし考え事。
姉貴はあさって家を出て行く。
自分で仕事をしてお金を稼いで生活をして。
手の届かない大人に姉貴がなってしまう気がする。
成人になれば大人になる訳じゃない、18歳で姉貴は大人になる。
《大人ってなんだろう?》

不思議な気がする
姉貴と俺は2歳しか年が変わらない。
でも・・2年以上の年の差を感じる。
《俺はガキだ・・・》

姉貴はなぜ、俺を受け入れてくれたんだろう?
わからない。
同情、愛情・・・。
でも、結果はわかっている。
明日からは普通の姉弟にならなけりゃいけない。
だったら・・・・

「千里くーん、入っていいよ~」
浴室から姉貴の声がした。

《今のこの時間を大事にしよう》

この部屋は洗面所も広い。明るい照明、大きな鏡。
ラブホテルはもっと淫靡な気がしていたけど、まったく違っていた。

そそくさと服を脱ぎ、洗面台の横に投げ置く。

「入るよ?」
「ちょっ・・・・ちょっと待って」
「なに?今更だめって言うのは無しにしてよ~?」
「駄目じゃないんだけど・・・・。浴室の電気消して?」
「は?どういうこと?」
「恥ずかしいんだもん」
「あ~・・・そういう事。わかった。消すよ」

パチン
浴室をの電気を消した。

「これでいい?」
「えっと・・・まだ明るい。洗面所も消してよ~」
「これ消したら真っ暗だよ?」
「消すの」

しぶしぶ洗面所の電気も消す。
「真っ暗なんだけど・・・」

そりゃそうだ。今灯いているのはベッドルームの間接照明だけだ。

「これじゃ一緒に入る意味ないよ~?」
「う・・・ん。確かに真っ暗かも」
「ベッドルームの電気、つけていい?」
「ちょっとだけ明るくして?全部は駄目だよ?」
「わかった」

傍から見ると間抜けな光景だったと思う。
真っ裸でベッドに上がり、照明を少し明るくする。

「これでいいかなぁ?」
「いいよ。入っておいで~」

《やっと一緒に風呂に入れる・・・》
ほんの数年前までは一緒に入浴していたのに、

いざ入ろうとすると案外恥ずかしい。
姉貴が恥ずかしがった気持ちが少しわかる。

旅館やホテル、銭湯にあるフェイスタオルを探したけど見当たらない。
「姉ちゃん、フェイスタオルあった?」
「バスタオルしかないみたい。体洗うスポンジがあるから大丈夫だよ?」
《いや、そうじゃなくて・・》
フェイスタオルで股間を隠して入りたかったんだけど。
仕方がないのでなんとなく手で隠して浴室へ入った。

薄暗い浴室の浴槽は泡が満杯だ。
姉貴が浴槽の壁にもたれかかっていて、胸元まで湯に浸かっている。
残念だけど泡で隠れて姉貴の肢体を見ることができない。

「姉ちゃん、狙って泡風呂にした?」
「ん?なんで?」
「・・なんでもない」

かけ湯をして風呂に入る。
浴槽は広い。二人並んで壁にもたれかかっても十分足が伸ばせる。

俺の横には姉貴がいる。それも裸で・・・。
抱きしめたい思いでいっぱいだった。
でも・・何故かその勇気が出ない。
姉貴の全部が見たいのに、もったいなくてこのままでもいい気もする。

「千里クン、体洗うのにあれ使うみたい」
姉貴が洗い場の椅子の上に置かれたスポンジを指差した。

「姉ちゃんは体洗ったの?」
「先に洗わせてもらいました~。恥ずかしいもん」
「え~そうなの?一緒に風呂入る意味がないよ、それじゃ」
「恥ずかしいからダメ。もう洗ったもん。髪だけ洗ったら後は終わりだよ」
「俺も恥ずかしいんだけど・・・・」
「だって千里クンから言ってきたんだよ?」
「そうなんだけど・・」
「洗ってあげよっか?スポンジ小さいし千里クン体硬いから難しいんじゃないかな?」
「・・そうだな・・じゃ、お願い」
「じゃ、そこに座って」

姉貴の言われるがまま、洗い場の椅子に座る。

「あっち向いてて」
「はいはい」

浴槽の反対に向きなおした。
姉貴が浴槽から出る音がする。

「じゃ背中から洗うね?」
「お願いします」

姉貴が俺の後ろから背中を洗う。

「痒いとこありませんか~?」
「美容院じゃないよ?」
「じゃ次は手を上げて~はいはい、いい子いい子~」

後ろ全体を洗ったところで姉貴の手が止まった。

「あのね、残りは千里クンが自分で洗って?」
「ん?」
「だって・・恥ずかしいし・・」

俺の前に廻るのが恥ずかしいらしい。
「わかった。ありがと」

また姉貴が湯船に浸かる。

「ジーンズ、何買ってくれたの?」
「505」
「リーバイス?」
「うん、そう。本当は姉ちゃんの欲しい物聞きたかったんだけど・・ごめん」
「そんなことないよ。うれしい。でもここで履かずに帰ってから履いてもいい?」
「え?なんで?」
「だって・・・私たち、今日別々に泊まってるんだよ、本当は。もし開封されたプレゼントをお母さんに見られたら困るよ?」
「そっか・・・」

姉貴が履いた姿を見たかったんだけど、確かに姉貴の言うとおりだ。
一通り体と頭を洗ったから俺も湯船に浸かった。

「千里クン、あっち向いてて」
「なんで?」
「髪洗うから」
「ん~」

今度は姉貴が湯船から出た。

「目を閉じるか、あっち向いててね」
「はいはい」

姉貴が髪を流しだした。
多分、姉貴は俺がどっちを向いているかわからない。
俺は見ないわけがない。

椅子に腰掛け、前かがみになり髪を流す姉貴。
昔と同じ格好だ。
昔と同じなのに俺たち、いつから恥ずかしくなったんだろう・・・。

「あれ?」
「なに?」
「リンス・・・どこかな?」
「そこにあると思うけど・・。取ってあげようか?」
「うん、お願い」
「そっち向くけどいい?」
「・・・いいよ。お願い」

姉貴の手元にあるリンスを手渡す。
「ありがと」

俺は浴槽の縁に腰掛け、そのまま眺める。
《昔は見慣れてたのにな・・・》

薄明かりの中で濡れた髪をふりほどき、体を起こし頭からシャワーを浴びている姉貴。
胸元が露わになった。形のいいふくよかな乳房がうっすらと泡に隠れている。
手を伸ばし触れたい衝動に駆られるけども、そのまま眺める。
感触は後で感じればいい。

「あっ!あっち向いててよ」
「ごめん、どうしても目がいく。見るなっていうのが無理」
「もう~じゃ、湯船に浸かってて」
「なんで?」
「・・・それ・・」

あぁそうか、さっきから息子がいきり立っている。
しぶしぶ浴槽に浸かる。

「私も入るね。だからあっち向いてて」
「はいはい」

姉貴が湯船に浸かった。

「千里クン、さっきの・・・
「さっきのって?」
「・・おっきくなってたの、昔お風呂入ってたときはなってなかったよね?」
「たぶん・・・」

くすぐったいような気まずい雰囲気の沈黙に包まれた。

「千里クンの・・・触ってもいい?」
「う・・・ん。いいよ。正面に座って」
「え?・・・・うん、いいよ」

俺が足を開き、姉貴が胸を手で隠し正面に座った。

「姉ちゃん・・・手をのけてほしい・・・・」
「・・恥ずかしいよ・・・」
「姉ちゃんを見たいんだよ」
「・・・もう・・千里クンエッチな子に育っちゃったなあ。こんな子に育てた覚えないよ?」
「俺も姉ちゃんに育てられた覚えないよ?」
「もう・・・・」
そう言って姉貴が手を降ろした。

薄暗い逆行で照らされる、形のいいふくよかな乳房。
すべての男性の憧れ。母性の象徴。

「姉ちゃん・・・すごくきれいだ」
「胸見ながら言ってるでしょ?」
「そんなことない。姉ちゃんの全てがきれいだよ」
「もう・・・・キザすぎるよ?」
「ホントだって。で・・・あの・・姉ちゃん、焦らしてる?」
「触って・・・欲しい?」
「・・・うん」

姉貴が手を伸ばし、息子をそっと掴む。

1年ぶりに触られた。人の手で触られる快感が下半身を貫く。
「んっ」
「ごめん、痛かった?」
「ううん、痛くない。姉ちゃんに触られるの、気持ちいい・・」

姉貴が包み込むように触ってくる。
姉貴の手の動きにあわせて俺の声が出てしまう。

「私・・・・千里クンを気持ちよくしたい・・・」
「俺も・・・。姉ちゃんの胸、触ってもいい?」
「・・・いいよ・・」
姉貴はそう言って目を閉じた。

右手を伸ばし、姉貴の乳房を触る。
柔らかい・・・。1年前に触ったあの感触。
指先で、手のひらで、乳房の柔らかさを感じる。

「柔らかい・・・・」
「恥ずかしいよ・・・・」

姉貴も手の動きを止めない。
息子の快感と手のひらの快感。至福の時間。

人差し指と中指で乳首を摘んでみる。乳房と違う固い弾力。

「ぁん」
姉貴が吐息ともため息ともつかない声を出した。

「千里クンのも固くなってる・・・・」
「姉ちゃんが触ると気持ちいいから・・・」
「ねぇ千里クン」
「なに?」
「あの・・・千里クンも一人でするの?」
「・・・・・・うん」
「そう・・・・」
「でも・・姉ちゃんが触ってくれる方が気持ちいい・・」
「ありがとう・・・・。ねぇどんなこと考えながらするの?」
「えっ・・それはちょっと・・」
「お・し・え・て・?」
「・・恥ずかしいって」
「じゃ、やめる」
「え~・・」
「ふふっ。上がろうよ、体ふやけちゃうよ?」
「・・うん。あとで続きして欲しい」
「うん、たくさんする。千里クンも私をたくさん気持ちよくして?」
「うん」
「じゃぁ千里クン先に上がって」
「なんで?」
「だって・・・一緒に体拭くの恥ずかしいし・・」
「じゃ一緒にシャワー浴びよ?それで俺が先に体拭くから」
「う~・・・わかった。せーので上がろ?」

「せーの」

ザバッ

二人で一斉にあがった。
薄暗い明かりに照らされる姉貴。
仄かな逆行に照らされ、体のラインが強調されている。

《きれいだ》
我慢できずに姉貴を抱きしめた。

「千里クン・・・・シャワー浴びよ?」
「うん・・・」
「流してあげる」

姉貴が俺にシャワーをかける。

「手を上げて~はいはい、いい子いい子~」
「またかよ・・・」
「じゃ続きは自分でやって?」
「ほんっとにまたかよ・・・」

自分でシャワーをかけた。
「先に上がって待ってる」
そう言って俺は体を拭き、いつものTシャツ、トランクスでベッドに横たわった。

ベッドルームは間接照明だけとは言え、浴室・洗面よりは明るい。
薄暗い洗面で姉貴が体を拭いている衣擦れの音がする。

やがて
「お待たせ」
姉貴が出てきた。バスタオル一枚を体に巻いて・・・・。

「あれっ、千里クン、服着てる?」
「俺、このカッコがいつものカッコ」
「やだぁ~私だけやる気満々みたいだよ~」
「そんなことないよ」
「・・・ま、いっか」

二人でベッドに横になった。
「あ・・・ジェットバスだったのに。忘れてた」
「一人だけ服着てる罰だよ」
「あ~そうなの?」
「布団に入ろ?」

二人で布団に潜り込む。
姉貴がバスタオルを放り投げた。
「千里クンも・・・脱いで?」
「うん・・・」
俺も着ている物を放り投げた。

布団の中で二人とも全裸だ。
さっきまで浴室で全裸だったのに・・・。
さっきとは少し違う興奮。

「姉ちゃん・・・キスしていい?」
「うん、して・・・」

俺は姉貴の上に覆い被さった。
最初は軽いキス。

改めて姉貴の顔を見てみる。

目を閉じて横たわる姉貴。
言葉にできないくらいきれいだ。これ以外の言葉が浮かばない。
そしてもう一度口づける。

そっと舌を絡ませる。
いつものように粘膜と粘液の絡み合う感覚。
しならくその感触を楽しむ。
ゆっくりと激しくなる息遣い。

「姉ちゃん・・胸触ってもいい?」
「うん、いいよ・・・気持ちよくして?」

布団の中の姉貴の乳房を軽く揉む。
喩えようの無いやわらかさ。

興奮してきたのか、体が熱くなってきた。
そっと布団を跳ね除ける。

もう一度、乳房を揉む。
先端が硬くなっている。手のひらで転がしてみる。
姉「んっ」
姉貴が声を出した。

この1年間、一人で慰めるときは姉貴をネタにしなかった。
というよりできなかった。
だから姉貴に似たAV女優がいつものネタだった。
姉貴をネタにするとその後の罪悪感が倍増するし、姉貴の顔を見ることができなくなるから。

でも・・・本人が俺の腕の中にいる。
貪るように姉貴を抱きたいという思いと、
慈しみ、時間をかけて抱きたいという思いがあった。

どうしていいか自分でもよく分からない。
姉貴はどう感じているんだろう・・・。

不意に姉貴が口を開いた。
「ねぇ・・・千里クンの・・触ってもいい?」
「うん・・・どうなったらいい?」
「横になって・・」

姉貴の横に横たわる。
身長差があるからそのままでは手が届かないんだろう、
姉貴が少し下にずり下がった。
姉「痛かったら・・・言ってね」
そう言って両手を伸ばし、触ってきた。

優しく触れるか触れないかの軽いタッチ。
微妙な感触で触ってくる。

「痛く・・・ない?・・大丈夫?」
「うん・・。もう少し強くてもだいじょうぶ」

姉貴のさわり方に少し力が入る。
根本を強く掴むような上下運動。
「んっ」
また、俺の声が出るけども姉貴は続る。

そしてだんだんヌルヌルしてくるのが分かる。
カウパー氏腺液が出ている。
姉貴は手が気持ち悪くなったらしい。
「・・・千里クン、ごめん・・・手を拭いてもいい?」

その声で少し冷静になった。
黙って姉貴にティッシュの小箱を渡した。

「・・俺も姉ちゃんを触りたい」
「・・・・触るだけだよ。見たら・・・・ダメだよ・・・」

黙って姉貴の下半身にそっと右手を這わす。
フサっとした感触を抜けてその先へ。

生暖かいような熱いような湿った感触。

「っんっ」
姉貴が軽く声を出した。
多分、姉貴は感じてくれているんだと思う。

「姉ちゃん・・・どこが気持ちよくなるの?」
「・・・恥ずかしいから・・・教えない」
姉貴が目を閉じて真っ赤な顔で答える。愛おしさが倍増した。

《姉貴と一つになりたい》
強烈に思う。

「姉ちゃん、俺・・したい」
「うん・・・・・・いいよ。でも」
「でも・・なに?」
「コンドームつけて・・」
「うん・・」

枕元にコンドームの入った小箱があるのは照明のスイッチを探すときに見つけていた。
姉貴からそっと手を離す。
右手の中指が濡れていた。
シーツで気づかれないようにそっと拭い、小箱を手にした。

つけ方は・・多分わかる。裏と表に気をつけてしわにならないように・・・。
本や聞きかじりの知識で着けようとするけど、なかなか上手くいかない。
手間取っていると、姉貴が起き上がって覗き込んできた。

「つけるの、難しい?」
「え・・・と、初めてつけるから・・」
「そっか。あのね?指サックの要領だって。」
「指サックってなに?」
「そうだよね、知らないよね。学校の授業で伝票めくったりするのに使うから。貸してみて」

姉貴がコンドームを手にする。
「私がつけていい?」
「いや・・恥ずかしいかも。それに・・・・」
見事に息子が萎んでいる。
1年ぶりだったし、緊張している。
「ごめん。いや覗くのは勘弁して」
「さっき、さんざん触ったのに何を言ってるかな?」
姉貴がまた握ってくる。
「わ、ほんとだ。柔らかくなってる。なんでなの?」
「おもちゃじゃないよ。ごめん、すぐに戻るから」
「固く・・・してみる」
有無を言わさず、姉貴がくわえ込んできた。
根本まで加えたまま絡みつく舌の感触。
「ぅっ」
思わず呻き声に似た声が出た。
唇をすぼめたまま軽く上下をしばらく繰り返した後に、姉貴が言う。
「固くなってきた・・・?気持ちいい・・の・・かな?」
「う・・・ん」
「コンドーム、つけるね?」
そう言いつつ姉貴は手の動きをやめない。
俺は声すら出せなかった。

「ついたよ?」
悪戯っぽい目つきで俺の下半身から姉貴が見上げる。

息子は爆発しそうなくらい固くなっていた。
姉貴は息子を握ったまま跨がってきた。
「挿れるね?」
俺は無言でうなづく。

姉貴がゆっくりと腰を下ろす。
息子から全身に快感が伝わる。
「んんっんっ・・」
姉貴から声が漏れる。
やがて根本まで腰を下ろした。
「んはぁっんっ・・」
声のトーンが高くなる。

両手を俺の両脇についた姉貴の乳房が揺れる。
右手を伸ばし、姉貴の乳房に手を添える。
柔らかい感触。人差し指で乳首を軽く押さえた。
「んっ・」
姉貴の声がまた少し高くなる。
そして・・・・・
猛烈に締め付けてくる。
締め付けたままぜんどう運動の様にうねる動き。

姉貴は腰の動きをやめない。
去年は痛かったのに、今日は全く違う。
快感しか伝わってこない。

一気に絶頂が押し寄せてきそうだ。

「姉ちゃんごめんっ」
激しく自分の腰を突き上げて・・・・果てた。

姉貴は俺の上にもたれかかってきた。

「すぐイッてごめん・・。早かった・・よね?」
「そんなことない。私も気持ちよかったよ?千里君はどうだったの?」
耳元で姉貴がささやくように言う。

「俺も気持ちよかったけど・・」
「けど?」
「早かったから・・」
「何と比べて早かったの?」
「AVとか・・・」

姉貴が額をくっつけてくる。
「比べないの。あれはフィクション」
そういって軽くキスをしてきた。

「抜く・・・ね?」
そういって姉貴が横たわる。
抜く瞬間、姉貴から吐息が漏れた。

「ティッシュとって。で・・・むこう向いてて?」

俺は息子を掃除するティッシュを抜き取り、姉貴にティッシュの箱を渡した。
「見ないでね?」
俺も見られたくないし、恥ずかしさから姉貴に背を向けて後始末をした。

「疲れた・・ね?」
「・・・・うん」
「どうしたの?」
「早かったから・・・」
「まだ気にしてるの?」
「それに前は布団が使えなくなるくらいになってたのに・・今日はなって無いから・・」
「気にしなくていいの、充分気持ちよかったよ?」
「・・うん」
「千里くんは気持ち良かったんだよね?」
「だから早かったし・・・」
「もう・・私は充分気持ちよかったんだよ?」

不意に姉貴が息子を触ってきた。
「んふ。柔らかい・・・この感触、好きかも」
「遊ぶな」
姉貴は暫く握って遊んでいる。
「あ・・・・・」
「なに?」
「芯ができた」
「触るから・・・・」
「ねぇ・・もう一回・・したい?」
「え?・・・わかんないよ」
「もう・・気にしないの。ね、今日はこのままくっついて寝るの。そして朝起きたらもう一回しよ?」
「うん」
「じゃ、今は寝よ?」

姉貴と一緒に布団を被った。
俺の左手を姉貴の枕元にねじ込む。

「腕枕?」
「うん。ダメかな?」
「私、腕枕初めてだよ?うれしい」
姉貴は俺の左手に頭を乗せ、丸くなった。
それを俺は包むように体をよせた。

「千里クン、暖かい」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ」

姉貴の体温を自分の肌で感じることができる事の、言いようのないうれしさを実感する。
そして疲れがどっと噴き出してきた。
もう考えることができない。だからすぐに眠りについた。

暫くして左腕が痺れて目が覚めた。
姉貴は・・まだ寝ている。
映画とかで腕枕をして朝まで寝ているシーンがあった気がするけど、
実際は楽じゃないらしい。
そっと姉貴の頭を持ち上げ、枕を置く。

静かに寝息を立てている姉貴。
姉貴を起こさないようベッドを出て、窓を開けタバコを一服。
窓の外は暗い。川面にネオンが映えている。
まだあまり時間がたっていないんだろう。

去年、姉貴を抱いたときから恋愛感情を抱いていた。
今の感情は?
まったく変わらない。

好き、愛している、恋している・・・・。
すべてが当てはまる気がする。

そして全部かなわない事もわかっている。

つま先立ちで背伸びをし続けている俺は、いずれ破綻する。
なんとか今、ここにいる俺は姉貴のやさしさの上にあぐらをかいているんだろう。
それも明日までだ。
明日までは姉貴のやさしさに甘えておこう。

だから明日ここを出ると普通の姉弟に戻らなければならない。

タバコを壁に押し付け、揉み消す。
窓を閉めてベッドを見た。
姉貴はまだ寝ている。俺も眠気が襲ってきた。

布団にもぐり、姉貴の体に触れてみた。

暖かい・・・。

目が覚めたら次はさっきみたいな事の無いように、がんばろう。
そう思いながら眠りについた。

目が覚めると少し動転した。
《ここはどこだ?》
薄暗く全く見覚えの無い部屋、大きなベッド。

一瞬の戸惑いの後、思い出した。
明日、姉貴が家を出て行くから・・・・
だから夕べ、ここに来たんだ。

そして浴室からシャワーの音がする。
姉貴がシャワーを浴びているんだろう。

《今何時だ》
今気付いたけど、ここには時計らしき物がない。
ベッドサイドにも壁にも。

テレビをつけようと布団を出ようとして、全裸である事に気付いた。
パンツだけ履いてテレビのリモコンのボタンを押す。

まだ6時過ぎだ。
昨日寝たのが何時か分からないけど、家で寝る時間より早かったと思う。
まだ時間があることに安心して浴室へ。

「おはよ」
「あ、ゴメン、起こしちゃったかな?」
「勝手に目が覚めた。俺も入っていい?」
「いいけど、私もう上がるよ?」
「あ~残念。でも俺もシャワー浴びる」
「じゃ、どうぞ」

姉貴がバスタオルを巻いて出てきた。
髪をアップにしている。シャワーを浴びたからなんだろう。

「おはよ。眠れた?」
「うん・・・・」

バスタオル一枚巻いただけの姉貴・・・。
いきなりスイッチが入った。

「姉ちゃんっ」
姉貴を思いっきり抱きしめた。

「もう・・・・」
そう言って姉貴も俺の腰に手を廻してくる。
「姉ちゃん、明日出て行くんだよね・・・」
「・・うん。そうだよ」

俺の手に力が入った。
「痛いよ・・千里クンもシャワー浴びておいで。汗かいてるよ?」
「その後・・・いいよね?」
「うん。昨日、約束したよ?だからシャワーどうぞ」
「分かった」

これで姉貴を抱くのは最後だ。
急いで体を洗い、ひげ剃り・歯磨きをすます。
とりあえず、パンツを履いてベッドルームへ。

ベッドの上で下着姿で横たわっている姉貴と目が合う。
早く姉貴を抱きたいという思いとしばらく姉貴を眺めていたいという思いが入り混じる。
生唾を思わず飲み込む。

でも時間が無い。ここを出れば姉貴に愛する感情を押し殺さなければいけないし、
そもそも姉貴に会うことも無くなってしまう。
刹那的な感情に身をゆだねる。

姉貴が横たわるベッドサイドに腰かけた。

「姉ちゃん、やっぱりすごく綺麗だ」
「もう・・・。照れるよ」

姉貴が起き上がりベッドに正座した。

姉「もう・・・これが最後だね・・千里クン、抱きしめて」
よくポニーテールをしていた姉貴のうなじは見慣れているはずなのに、
そのうなじに強い欲情を駆られた。
姉貴をゆっくり押し倒し、うなじにキスをした。

石鹸と昨日のリンスの香り・・・。
こんなに近くで姉貴を感じることが出来るのは最後だと思うと、自然に涙が出てくる。
上半身を起こし、姉貴の顔を見た。

「1年前も千里クン・・・・泣いてたよ?」
そう言って姉貴がそっと涙を拭ってくれた。

去年は・・・
あれから1年たった。
忘れようとしても忘れられなくて、この想いから逃げ出していた。
背伸びし続けることも叶わず成就することは無いけど、
この一瞬を大事にしたい・・。

「千里クン・・・・脱がして・・・」
俺の返事を待たず姉貴が横たわる。
ブラのホックを外せと言うことなんだろうけど・・。

「大丈夫だよ?見たら外し方わかるから」
姉貴にはお見通しらしい。

ぎこちなくブラのホックを外す。。

「これで・・いいのかな」
「うん」
姉貴が仰向けになる。
「肩ヒモも・・」
左手で胸を隠し、姉貴が言う。
右の肩からそっと肩ヒモを外し、右腕を抜く。

姉貴が目を閉じて、乳房を隠していた左腕をそっとのけた。。
左肩から肩ヒモを抜いたところで、完全に乳房があらわになった。

そっと右の乳首を吸う。
「んっっ」
姉貴が吐息に似た声を出した。
そのまま左の乳房を軽く揉んでみる。

やわらかい・・。
1年前と変わっていない感触。
時々夢に出て来ることがあった。
姉貴を汚す気がして、絶対に自慰には使わなかった想い出。
その感触を手のひらで感じる。

「千里クン・・・ブラ・・ちゃんと脱がして・・」
まだ姉貴の左腕にブラが引っかかっていた。
左腕からブラを抜く。

姉貴が頭を浮かし、アップにした髪留めを外した。
枕元に広がる姉貴のセミロングヘア。
薄暗い部屋の中でも漆黒の艶がわかる。

「全部・・脱がして」
そう言って姉貴がこっちを見た。

一瞬、逡巡する。
でも・・・わかっている。俺は姉貴を求めている。多分、姉貴も。

「姉ちゃん、大好きだよ」
姉貴に口付け。
やわらかい唇の感触と絡みつく舌の感触。
そのまま姉貴を抱きしめる。
屹立した俺の息子が姉貴に押しあたる。
かまわない、それでも。
姉貴の体温と自分の体温を交換する感覚。

そのまま唇を姉貴の耳たぶに這わした。
「ぁん」
姉貴の小さな喘ぎ声。耳たぶを軽く甘噛む。
「んっっ」
確かに姉貴は感じてくれている。

「・・・千里クンずるい」
「・・え?・・なにが」
「私ばかり気持ちよくして・・」
「俺、姉ちゃんを気持ちよくしたいから・・・」
「うん・・ありがとう・・わたし・・・感じてる」

姉貴のうなじまで唇を這わし、かるく舐めてみる。
「あんっっっ」
ここも感じるんだ。

姉貴の手がそっと息子に触れてくる。
「固く・・なって・・る・・・よ?」
俺は答えない。そのままうなじに舌を這わし続ける。

「んっっっ だ・・から・・ぁんっ・ずるいよ、千里クン。私も・・・」
姉貴が喘ぎながら続けて言った。
「あ・・のね、私も・・千里クンを・気持ちよく・・するの」

強く姉貴の手が息子を握る。
姉貴も俺と同じ気持ちなんだろう。
お互いを気持ちよくしたいんだ。そして気持ちよくなりたいんだ。

「姉ちゃん、最後まで脱がせるよ」
そう言ってショーツに手を伸ばす。
途中、へその上に手が触れた。

「あんっっっ」
さっきより大きな喘ぎ声。おなかも感じるんだ。
へその周りをそっと撫でてみる。
「んふっ・・気持ちい・・いけど・・くすぐったい」
姉貴が俺の顔を向く。
「千里クン・・・ここ・・どう?」
姉貴が不意に俺のわき腹をくすぐってきた。
「ぅわっ・・そこはだめ」
「ふふっ。まだダメなんだ」
姉貴がいたずらっぽく笑う。

「なんだよ、それ。さっきまで感じてたくせに」
「あのね?千里クン。女の子にそんな事言わないの。ダメだよ?」

さっきから姉貴の口調が少し変わった気がする。
ちがう。戻った気がする。
よく理由はわからないけど・・・・うれしかった。

上半身を起こし、姉貴のショーツに手をかける。
「・・いい?」
「うん・・いいよ」

姉貴が目を閉じ、腰を少し浮かせる。
そっとショーツを足元までひっぱり両足を抜く。

完全に生まれたままの姿の姉貴。
真っ白な肢体、均整のとれたプロポーション。
去年より少しくびれたウエスト。
ふくよかなバスト。その頂点にある桜色の乳首。
目が姉貴から離せない・・・。

「あのね、千里クン・・・恥ずかしいよ?」
「・・・・見とれてた」
姉貴が起き上がり、正座する。
形の良い乳房が揺れる・・・。

「ずるい。千里クン、まだはいてる」
「え?ああ、うん。脱いだほうがいい・・・かな?」
「うん。脱がしてあげよっか?」
一瞬、姉貴が俺を脱がすところを想像した。

黙ってパンツを脱ぐ。
少し恥ずかしくて、俺も正座して手で軽く股間を隠した。

「やっぱ・・・恥ずかしいかな、俺も」
「私もだよ?千里クン、体つき、変わったね。がっしりした」
心当たりがある。バイトで重たい新聞の束を抱えて右往左往しているから、
腕や肩の筋肉がかなりついている。

「うん・・ありがとう。姉ちゃんも・・・」
「私も・・・なに?」
「姉ちゃんは変わらない」

そのまま姉貴に口付ける。
今日だけで何回、口付けしたんだろう。
何回しても飽きることが無い、姉貴の唇。
そのまま姉貴を抱きしめる。
また姉貴の体温を感じる。
人肌の温もり。それが心地いい。

姉貴の背中に手を廻した瞬間、姉貴の体がびくっと震える。
「ごめん、くすぐったかった?」
「ううん・・・そうじゃなくて・・感じたから・・」

そっと姉貴の背中を指で撫で続ける。
俺の耳元で姉貴の喘ぎ声が続く。
「背中、キスしてもいいかな」
背中に指を這わしながら聞いてみる。
姉貴は小さく喘ぎ声をだしながら少しうなずいた。

姉貴の背中に廻り髪を束ね、左肩から前に流す。
そっと肩甲骨から腰まで下を這わしてみる。
「んんんっっっ」
ひときわ姉貴の大きな声が出た。

そのまま両手を姉貴の乳房に添え、うなじに舌を這わす。
両手の手のひらに、熱い体温にやわらかい感触を感じる。

「んあああああん」
姉貴の声がさらに大きくなった。

「ずるいよ・・・千里クン・・私・・・ばっかり・・感じて・る・・・私も千里クンを・・」
そこまで姉貴が言ったところで両方の乳首を軽つまむ。
「ああああああんんんんっ」
姉貴の声が喘ぎ声に変わった。

「姉ちゃんの感じてる声、かわいい」
「千里クン・・あの・・ね・私も千里・・クンを・・・気持ち・よく・・したい」
姉貴が手を後ろに廻し、俺の息子を握ってきた。

「俺も姉ちゃんを・・・」
「わた・・し・・十分きも・・ち・いい・・よ」
姉貴が絶え絶え答えた。

「千里クン・・横に・・なって」
姉貴が手を離して言う。
だまって姉貴から離れ横になる。
「こう?」

姉貴は返事をせず、俺に被さってきた。
黙って俺を姉貴の中に導いていく。

生暖かく湿った感触。
「っんっっ」
声とも喘ぎ声ともつかない声を姉貴が上げる。
目を閉じた姉貴が俺の肩に手を廻し、唇を重ねてきた。
そのまま姉貴がゆっくりと、動き出す。
「ん・・・・あっん・・・ん・・」
自身の動きに合わせて姉貴が喘ぎ声をあげる。
柔らかい唇を重ねたまま、動く姉貴。
重ねた唇から声が漏れる。
その中に俺の舌をねじ込む。

「ねぇ・んっ・・千里クン・ぁん・・わたし・・気持ちいい・・・んっ・」
姉貴の声は喘ぎ声にまぎれた途切れ途切れだ。
俺も姉貴に締め付けられる感覚に息が途切れる。
お互いの頬が引っ付き、お互いの耳元にお互いの熱い吐息が交錯する。
たまらず姉貴の背中に手をまわす。
姉貴にしがみついてしまう。
そして自ら大きく激しく動く姉貴。

一際姉貴の声が大きくなった。
「千里クン・・あのね・・あのね・・わたし・・・もう」
「・・うん・・いいよ」
俺もうまく声を出せない。
激しい動きに締め付けられる密着感。
息子自身も俺自身も姉貴の胎内にいる熱さを感じた。

姉貴の動きが激しさを増す。
「ああっん・・・・もう・・んっあのね・・いっ・ぁんっ・ちゃうか・・も」
激しく動きながら姉貴が声にならない声を上げた。
その瞬間、姉貴が激しく締め付けてきた。
息子全体を強烈に締め付けてくる、今までに無い感覚。
そのとたん、被さっていた姉貴の力が抜ける。
「わたし・・イッちゃったかも・・」
姉貴が絶え絶えに言った。
「うん・・。すごかった。かわろ?俺が上になるから」
俺からずり落ちるように姉貴が動く。

「あ・・・」
姉貴が横になって恥ずかしそうに言った。
「なに?姉ちゃん」
「また・・シーツが・・」

俺が横たわっていた場所はシーツが濡れていた。
「こっちに横になって」
黙って姉貴が横にずれる。
「ね・・千里クン・・」
「ん?」
「恥ずかしいよ・・・」
「え・・・何が?」
「シーツ・・また・・こんなになっちゃった・・」
「・・嬉しいよ。俺、気持ちよかった」
「わたしも・・・千里クン、まだ大丈夫?」
「うん。挿れていい?」
「聞かないで・・」

今度は姉貴の上に俺が被さる。
姉貴の唇が妙に艶っぽい。
そっと姉貴の唇に人差し指を這わす。
「いや・・・」
「え・・・?ごめん、唇、いやだった?」
「そうなじゃいの、唇触られるのは・・気持ちいい・・でも」

姉ちゃんも我慢できないんだ。
黙って息子を姉貴の中へ挿れる。

「んっっ!!」
中に入る瞬間、姉貴がくぐもった声を出す。
「姉ちゃん、声を我慢しないで・・」
ゆっくり大きく動きながら姉貴に声をかける。
「え・・」
「俺、姉ちゃんの感じてる声、もっと聞きたい。だから・・」
「んっっ・・ばか・・」
姉貴が喘ぎながら返事をする。

そっと姉貴の乳房に手を這わす。
柔らかい曲線の頂点にある乳首まで這わし、そっと摘まむ。
「あああっっんん」
姉貴の声がひと際大きくなった。
そしてさらに締め付けられる感触。姉貴の声と連動している。

掌の真ん中で乳首を転がすように揉む。
「んっんっ・・あんっ・・んっ」
動きに合わせて姉貴の声が出る。

俺にあわせて感じている姉貴。本当に可愛い。
姉貴に口付ける。
姉貴から舌が入り込んでくる。
まさぐるように蠢く、姉貴の舌。
それを同じように俺の舌でまさぐる。

重ねた唇から姉貴の吐息が漏れる。
声にならない声。
息遣いが激しくなっていく。

自分の絶頂が近づいてくる。

姉貴の腰に手をまわし、激しく姉貴を突く。
激しく声を出す姉貴。

「姉ちゃんっ・・俺・・イッてもいいっ?」
「んっあんっあんっ・・いいよ・んっ・・千里クン・・来てっ!!」
姉貴も俺の肩にしがみついてくる。
強烈な一体感。二人の間には何も無い。

そう感じた瞬間、自分の絶頂が来た。

奥へ。とにかく奥へ。

姉貴の奥へ突き、絶頂を迎えた。
姉貴も激しく蠕動する。蠢くような締め付け。

「姉ちゃん、俺・・イッっちゃった」
「・・うん。すごかった・・」

同時にやさしく頬をなでてくる姉貴の手。
肩で息を切らしたまま、姉貴の目から涙が流れている。
俺は、体中が心臓になったように全身で激しい鼓動を感じていた。

姉貴からそっと抜く。
「んっ」
目を瞑り、姉貴が軽く声を出した。

終わったことを急に実感した。
姉貴とこうしてすごせる時間はもう終わった。

「姉ちゃん、ありがとう」
「私も・・・。千里クン、頑張ってね」

《頑張る・・何をだろう?》
聞くことが出来なかった。聞くのが怖かった。

枕もとのティッシュを取り出し、数枚取り出し姉貴に渡す。
「ありがと。ね、布団取って」
姉貴にかけ布団かけた。
「見ないでね?」
布団に潜ってモゾモゾしている。

俺は息子を拭いて、姉貴が出てくるのを見ていた。
布団から顔を出した姉貴と目が合う。
「あ・・見ないでって・・もう。恥ずかしいよ」
「ごめん、なんとなく姉ちゃんを見ていたかったから」
「もう~」

姉貴が布団から起きだし、バスタオルを体に巻きつけた。
「シャワー浴びる?」
「ううん。着替え、洗面室だから。今日はシャワー浴びない」
そう言って姉貴は洗面室へ向かう。
俺もシャワーは浴びない。姉貴の残り香が消えてしまう気がしたから。
せめて今日一日はこのままでいよう。

「いま何時かなぁ?」
服を着た姉貴が洗面室から出てきた。
「ここ、時計が無いみたいなんだ。テレビ付けてみたらいいよ」
「ん」

姉貴がテレビのリモコンのスイッチを入れた。
ちょうど、子供向けの戦隊もののオープニング曲が流れ始めた。
まだ8時過ぎなんだろう。
でも・・今日中に引越しの準備をしないと、明日は引越しだ。
親父が今夜、1BOXを借りてきて荷物を今日中に積み込み、明日の朝出発する。
ここで過ごせる時間はもう無い。

「おなか空いちゃったね?」
「ああ・・そうかも」
「そろそろ・・いい・・?」

姉貴が遠慮がちに聞いて来た。時間が押し迫ってきていることを姉貴も感じている。

「出ようか・・」
「うん」

俺も黙って脱ぎ散らかした自分の服を着る。
忘れ物は・・・無いみたいだ。

「姉ちゃん」
「なに?」
「最後にキスさせて」
「・・これが最後だよ?」

姉貴が俺を抱きしめてきた。
黙って姉貴にキスをする。
そっと遠慮がちに絡みつく舌。

しばらくして姉貴から離れた。

「千里クン・・・行こ?」
「・・うん」
これが最後のキスだった。

「お金・・どうやって払うのかな?」
姉貴がふと呟いた。
そういえばここにはフロントが無い。
ホテルの注意書きを見てみた。

フロントに電話をしたら係りの人が料金を精算に来るらしい。

電話機を取り上げ、帰ることを伝えた。
そしてすぐにノックの音がした。

「千里クン・・出てもらってもいい?」
姉貴が照れくさそうに俺に言ってくる。事がすんだことを人に見られるのが恥ずかしいんだ。

戸を開け、どんな人が来たか恐る恐る見てみた。
『高校生が何してるんだ』とか言われても困る。

けど、そこにいたのはオフクロよりはるかに年上の女性だった。
言われた金額を支払い、精算は終わった。

「千里クン、私が払うから。いくらだったの?」
「いや、俺が払う」
「でも・・」
「俺が払うって言ったら俺が払う。そもそも姉ちゃん、稼いだバイト代のほとんどを一人暮らしの費用に当てたんだろ?」
「でも・・それくらい残ってるよ?」
「いいから。もう俺が払ったから」
姉貴はそれ以上何も言わなかった。

二人で昨日の夜と反対に通路を歩き、エレベーターに乗ってロビーへ。

ふと思った。
ホテルに入るときは周りを気にしながら入るから、意外とすんなり入ることが出来た。
でも・・。
出るときはそうは行かない。出たとたん知り合いに会う可能性だってあるし・・。
姉貴も緊張した表情をしていた。
ここで俺がビビッていたら男がすたる。

だまって姉貴の手をつなぎ、そしらぬ顔でホテルの出口を出た。
幸い、あたりはまだ誰もいない。
そもそもここはビジネス街のはずれで、今は日曜日の8時過ぎだ。

「どきどきしたぁ。千里クン、よく平気だったね?」
「え?いや別に」
強がる。
「おなか減っちゃったね。あそこのコンビニで何か買おうよ?」
「うん、俺も腹減った」

コンビニに行き、ペットボトルのスポーツ飲料とパンを買う。

あまり人気の無い川岸の遊歩道にベンチがあった」
「あそこで食べよう」

二人並んでベンチに座る。
川面にはカモが群れていて、川岸にはシラサギがいた。

「こんなとこで朝食とるなんてあまり無いよな」
「うん、そうだね。でもこういうのもいいかも」

パンを頬張りながら話し続ける。

「姉ちゃん、ずっとバイトしてたのは・・一人暮らしのため?」
「・・・・うん、そう」
「何か理由があるの?」
「え~っと・・これといってあるわけじゃないんだけど・・どうして?」
「いや・・別に」

両親の会話で、姉貴が一人暮らしの費用の大半を出したことを盗み聞いていた。
ひょっとしたら、俺との関係で姉貴が一人暮らしを望んでいたのかも知れない。
聞くことが出来なかったけど、たぶん間違いない気がする。
でも、姉貴に聞くことは出来ない。

考え始めたら黙ってしまう。

「ねえ千里クン」
「ん?」
「去年、公園で話したこと覚えてる?」
「・・・・・姉ちゃんか嫁かを助ける話?」
「そう、それ。答えは変わらない?」

いきなり聞かれても答えようが無い。

「どっちかしか助けられない・・。だったら俺も一緒に落ちる」
「0点だよ」
「どっちかなんて俺には選べないよ」
「お父さんならどうすると思う?」
「親父・・?飛び降りることは無い・・かな」
「私もそう思うの。強くなって、千里クン」

去年、姉貴が言ったことの意味がわかった。

「わかった。どっちも助けられるようになればいいんだ」
「100点だよ?」
姉貴が微笑む。
俺が強くなることを姉貴は望んでいるんだろう。

強くなることの意味、手段はまだわからない。
でも・・・
強くなることへの執着、努力を続けていけばいいんだ。

「行こっか」
二人とも朝食を平らげたところで姉貴が言った。
「うん。姉ちゃんはバス?」
「そうだよ。千里クンはJOG?」
「うん。俺が先に着くと思うから、ジーンズは部屋に置いておくよ」
「帰ったら履くね」
「じゃ、またあとで」
「うん」
そういって姉貴と別れた。

昨日、歩いてきた道を一人で戻る。
夕べは姉貴と一緒に手をつないで歩いた。

でも・・・
これからは独りだ。今日だけじゃない、これからずっと。
明日には姉貴は家を出る。
分かっていた筈なんだけど・・。
独り、涙をこらえて歩く。

パチンコ屋についてJOGに乗る。
早く帰りたい気持ちと帰りたくない気持ちと。
両方の気持ちがせめぎ合う。

いや、早く帰らなきゃ。
姉貴の準備を手伝わなければいけない。

結局、そのまま家に着いた。
両親に怪しまれることは無いみたいだ。
碇の家に電話し、家に帰ったことを伝える。
昨夜の出来を根掘り葉掘り聞かれるけど、一言謝って、碇がしゃべっている最中に受話器を置いた。
姉貴の部屋に昨日のジーンズを置き、自室へ戻る。

そういえば・・・。
昨日の夜からタバコを吸っていない。
猛烈にタバコを吸いたくなり、一服。
窓を開け、外を眺めながら煙をくゆらせる。

一人でいるといろんなことを考えてしまう。
だからと言ってリビングに下りて両親の相手をする気にもなれない。
自室でタバコをくゆらせるだけだった。

やがて・・姉貴が帰ってきた。
リビングで一言二言話をして、自室へ入っていく。

しばらくしてドアがノックされた。
「どうぞ」
「あ~またタバコ吸ってる」
「ゴメン・・」
「もう~体に悪いんだよ?本当に・・」

姉貴に目をやると昨日のジーンズを履いていた。
やっぱり似合っている。

「似合うよ、姉ちゃん」
「うん、ありがと。サイズもぴったりだよ。どうしたの?」
「姉ちゃんのほかのジーンズ計らせてもらった」
「そっか。ありがとう、大事にするよ」
「うん。引越しの準備、何をすればいい?」
「もう服を詰めていくだけだから。千里クンはダンボールをリビングに持って下りてくれる?」
「わかった。リビングの場所を空けてくる」

リビングの片づけはもう終わっていた。
親父とオフクロが場所を空けている。
そこに姉貴の部屋からダンボールを持って下りる。
姉貴の部屋に積み上げられたダンボールは、そう多くない気がした。
けれども持って下りると案外多い。

結局終わったのは昼食をはさんで3時を過ぎた頃だった。

姉貴のベッドに腰掛けて一休み。
「ありがとう、千里クン」
「どういたしまして」
「終わったね」
「いよいよか・・・感慨深いね」
「そうだね。ずっとここに住んでいたから。初めての一人暮らしだしね?」
「姉ちゃんなら大丈夫じゃないの?炊事掃除洗濯一通り出来るし」
「うん・・・でもやっぱり不安だよ?」
「そりゃそうか」

他愛も無い話。いろいろな話が続く。
一人暮らしの不安、無線や学校の思い出・・・。
話が尽きることは無かった。

やがて親父がレンタカーを借りてきた。
ガレージに車を付けると、今度はリビングのダンボールをレンタカーに積み込む。
やっぱりかなりの量になった。
後部座席は折りたたま無ければ荷物は全部載らない。

明日は両親と姉貴が前席に乗っていくんだろう。
俺は・・学校がある。
見送りをしたいんだけど・・・。
たぶん、姉貴たちの出発は渋滞時間を避けるだろうし、俺の登校時間より遅くなると思う。

さりげなくオフクロに遅刻して、姉貴を見送ることを懇願してみた。
以外にも許可が出る。朝、オフクロが学校に連絡をしてくれるらしい。
ほっとした。

その日の夕食は近所のふファミレスで済ますことになった。
家族全員で食べる食事も当分無いだろう。本当に感慨深い。

家に帰った時間は9時を過ぎていた。
順番にフロに入っていく。
フロの順番を待つ間、ずっと姉貴の部屋で話をしていた。昼間の話の続きをずっと・・・。

やがて姉貴がフロに入り、俺一人になった。
自室に戻り、一服。

《寂しい・・・》
これ以上、今の気持ちを言い表す言葉は無い。
いつでも会えた人が、それも大好きな人がいなくなるって言うことは、本当につらい。
いろいろな想いが頭をよぎる・・。

そして・・ドアがノックされた。
姉貴がドアの外からフロの順番が廻ってきた事を告げ、自室に戻っていった。

けだるい気持ちを抱えながら風呂に入る。
ほんの数年前までは一緒にここでフロに入っていた。
《懐かしいな》

何かに付けて、姉貴との思い出に重なってしまう。
早く姉貴のいない生活に慣れなければ・・。

風呂から上がって自室に帰ると、すぐに姉貴が来た。
「どうしたの?」
「えっと・・私のお布団こっちに持ってきて寝ようかと思ったんだけど・・」
「けど?」
「タバコ臭い」
「あ・・・じゃ、俺の布団を姉ちゃんの部屋に持って行っていい?」
「うん。そうしよ」

たぶん、寂しいのは俺だけじゃない。姉貴もそうなんだ。

二人で布団を姉貴の部屋に運ぶ。
本当は姉貴に未練がたっぷりある。
でもそれを言葉や態度に表すと、間違いなく姉貴に悲しい想いをさせる。
そんな想いはしまいこんでおく。

姉貴のベッドに並んで俺の布団を敷いた。
そしてまた話の続きをしていった。

翌朝、姉貴に起こされた。
「千里クン、おはよ。朝だよ?」
「あ・・・・」
そうか、夕べ姉貴の部屋に布団を敷いたんだった。
「おはよう・・」
「もう朝ごはんできてるから。降りよ?」

リビングに行くと、朝食をとっていないのは俺だけだった。
急いで朝食を摂る。
「姉ちゃん、何時頃に出るの?」
「え~っと、お父さんが9時頃に出ようって行ってた」
「ん、わかった」

あと1時間ほどで姉貴が出て行くんだ・・。
別れが秒読みに入ったことを痛感していく。

姉貴は身支度に忙しいらしい。ゆっくり話をする暇はなさそうだ。
俺は自室でボーっと過ごした。なにも考えることが出来ない。

やがて親父の怒鳴り声が階下からした。出発の時間が来た。

車の運転席には親父、真ん中の補助席にはオフクロ、助手席に姉貴が乗り込んだ。
もう、本当に出発だ。

「千里クン、元気でね」
「うん、姉ちゃんも」
「約束、守って」
「うん、俺、強くなる」
姉貴が手を伸ばしてきた。
黙って手を握る。

車のエンジンがかかった。

ゆっくりと進みだす車。
つないだ手が離れた瞬間、俺の頬に触れた。

見えなくなるまで車を見送った。
《絶対に泣くもんか》
姉貴と約束した。俺は強くなる。

けれど・・感情を押し殺すことが出来ない。
あふれる涙をこらえることが出来ない。

自室にこもり、一人声を上げて泣いた。誰にも憚れる事も無い。

やがてそのまま寝てしまっていた。

目が覚めると、まぶたが重い。
泣きはらした顔を洗いに洗面所へ行くと、泣きはらしたひどい顔の俺がいた。
情けない。こんな顔をしていたら姉貴に申し訳ない。

『俺大丈夫だから。絶対立ち直る。
 そして強くなる。
 だから待ってて。次に会うときの俺は今よりもっと強くなってるから。
 姉ちゃんが頑張った以上に俺もがんばる。
 そして少しでも早くオトナになる。
 姉ちゃん、見ててくれよな』

心の中で姉貴に話しかける。そしてそれは俺の誓い。
いつかこの事は俺の思い出の一部になる。
そう信じてやっていく。

心に深く刻んで、姉貴への想いを封印していこう。
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先生・生徒・禁断 | 【2018-07-31(Tue) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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